「虎に翼」優三、出征。「トラちゃんのはて、便利なんだね」<第40回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第40回を紐解いていく。
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どこまでもいい人・優三
あまりに短い結婚生活。いや、子供・優未が生まれるまで1年くらいあったわけですが、ドラマのなかでは快速電車のように駅を飛ばして時間が進んでしまったので、寅子(伊藤沙莉)と優三(仲野太賀)の結婚生活が数ヶ月くらいに思えてしまいました。それだけいろんなことがあり、目まぐるしく時が進んでいったのでしょう。赤紙が来て、出征する前に、やりたいことはないかと直言(岡部たかし)に尋ねられた優三は寅子とお出かけしたいとささやかな望みを言います。
お出かけと言っても戦時中、河原でお弁当を持ってピクニック的なこと。
そこで寅子は土下座して謝罪。自分の都合で契約結婚したのに、気を変えて甘えて子供を作って……と謝るのです。ここも、昨日の回と同じく視聴者の疑問へのガス抜きのためのようなセリフです。
寅子は自分のしたことをちゃんと自覚していたようです。が、さらに言わせてもらうと、子供ができたいま、嘘から出たまことではないけれど、いまやもうすっかり優三のことが愛おしく大事に思っていると言ってほしかった。「トラちゃんが僕にできるのは謝ることじゃないよ」のあと、いまは優三さんが大好きだと言ってほしかった。でも、そうじゃない、人間のいい面と悪い面を描きたいのでしょうか。
優三はそこで「はて」と遮り、「トラちゃんの『はて』便利なんだね」と寅子がやりたいように生きることが自分の喜びなのだと言うのです。なんて人! お弁当も「全部おあがり。優未にお乳をあげないとね」と言うし。彼に悪い面があるとしたらいい人過ぎることです。
好きとは言わない代わりに、おいしいものをハンブンこしたり、千人針を縫ったりします。寅年生まれの人が縫うと最強だと言われていたのです。
旅立ちのとき、優三は変顔をしようとしますが、うまくできず、寅子が追いかけていって、変顔をしてみせます。
いつしか優三と寅子は、彼らだけにしかない繋がりができあがってはいるのです。それだけで十分なのかも。
それにしてもなぜ、寅子は、出征する人に「おめでとうございます」と言ったり、「万歳」と送り出したりしないといけないのか、そういうことに「はて?」を言わないのか。いまはそういう世の中だと忍耐しているのでしょうか。
寅子は法の世界に生きているのに、社会のことをあまり考えている場面がありません。いま、戦争がなぜ行われ、どういう状況で、世界はどうあるべきか関心がないように見えます。
推測ですが、そこを書き始めると話が違う方向にいってしまうからあえて描かないのかなあと。
社会状況としては、後輩・小泉(福室莉音)という人物が訪ねて来て、女子部が閉鎖されることになったり高等試験がなくなったりしたことを報告します。新聞で報道されそうなこととはいえ一足先に知らされたってことかもしれません。このちょっとかわいらしい小泉は今後、寅子と関わってくるのでしょうか。
麻布の家から引っ越した登戸の直言の会社の社員寮も比較的、恵まれた環境にあったのと、戦争の直接的被害はこの時期はまだないから、戦争が他人事だったというシニカルな描写かもしれません。
敵国を憎むという流れにもしないで、寅子と優三の別れの場面は英語のボーカル曲が流れ、斬新でした。
次週予告では、どうやら、戦後になるようです(第1話の冒頭に戻りそう、まだ9週ですよ?)。戦時中を舞台にしながらここまで早く戦争が終わるのも画期的。戦争をドラマで描かずとも、ニュースで世界の戦争の様子がたくさん流れていますから。
(文:木俣冬)
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