「虎に翼」花岡の悲劇が衝撃<第50回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第50回を紐解いていく。
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民法改正
「私はまた何か問題を起こしたかね?」
(穂高)
穂高(小林薫)は、寅子(伊藤沙莉)が妊娠したときの揉め事以来、彼女をこの道(法曹界)に寅子を引きずり込み不幸にしてしまったと気に病んでいたようで。
寅子が子供を育てるために無理して法曹界に戻ってきたと誤解し、別の職を紹介すると親切で申し出るのですが、寅子は「はて」と、自分は不幸ではないのだが……と首をかしげます。
寅子と穂高の食い違いがとんちんかんで滑稽にも見えるし、人間同士はこうもわかりあえないのかという悲劇にも見えて、これが世の中を象徴しているように思えました。悲劇と喜劇が合わさった物語をトラジコメディ(悲喜劇。トラジ tragedyは悲劇の意味)といいます。これはさながら虎ジコメディってことでしょうか。
穂高の心理を考察。
もともと、寅子が妊娠による体調不良で倒れたとき、子どものために休んだほうがいいと穂高は慮りました。
穂高にしてみれば、彼女を女子部に誘ったとき、いまの寅子にすぐにでも大活躍してもらうつもりではなく、大きな畑にいくつか種を撒いたようなものでしかなかったのだと推察します。当時、女子部活性化が大学の使命だったからでもあるでしょう。
穂高は極めてニュートラルなひとであり、ことさら女性びいきをしているわけでもないのだと思います。
ひとりの女性(寅子)をその気にさせて落胆させたということを反省した穂高は、いまだに法曹界では女性が少なく、寅子が活躍する可能性も保証できない。生計のために居づらい法曹界に復帰して、暗い顔をしているくらいなら、給料のいい別の仕事を紹介すると申し出たと思われます。
合理的な考えが必ずしもいいわけではなく、もっと他者の内面に寄り添うことを求められることがあるのです。よく、悩みを打ち明けられたとき、正論で返しても喜ばれないというようなことがあるじゃないですか。穂高と寅子の食い違いはそれに近いのではないでしょうか。
寅子は「好きでここにいるんです」「それが私なんです」と反論。
桂場(松山ケンイチ)が言うように、結果的に穂高の行為が寅子の背中を押したことになったのです。穂高が意識的にやっていることにすれば、穂高最高、になるところですが、なぜか、穂高の心理は明確に描かれません。
穂高がどういう人物か知る手立ては「雨だれ石を穿つ」という彼の考えです。これはものすごく地球の歴史的な、哲学的な考え方。地球上の生き物はすべて雨だれのようなもので、地球の長い歴史に比べたらちっぽけなのだということです。たぶん。
一方、寅子は、そんなこと言っても、今、れっきとして生きているのだから、全体を大事にしましょうというのではなく、個の幸福に目を向けてこその全体ではないかと考えるのです。
燃え盛った寅子の心を鎮めたのは、日本国憲法の条文でした。まるでお経のように唱えて……。その端正で理性的な文章に彼女はある意味うっとりとなるのです。あらためて、法律が好きなのだと自覚した寅子は、
「私が私であるために、やれるだけ努力してみるか」
(寅子)
と息を吹き返します。
民法改正案の会議で、あくまで”家”を大事にしようとする神保(木場勝己)に対して、寅子はついに僭越ながらと言いながら手をあげ、意見を述べます。「家のまえに、ひとりひとりの尊厳を」と。
そのまえの個のために家を大事にするなんて「大きなお世話」と言うのは、余計だった気もしますが。
寅子が努力した成果のひとつは、高学歴でない女性にもわかる口語体にしたことです。
はる(石田ゆり子)や花江(森田望智)は改正案を読んで、カタカナばかりで読みにくい。
私達にわからせまいという書き方をしている。自分たちの頭がいいと自慢したいんじゃないか。などと言っていて、寅子はその声を反映させたのです。ほんとに、法律のみならず、日常交わされる契約書などもわざと読みにくく書いてあると思うことがありますよ。
ちょうど令和のいま、夫婦別姓について議論が成されていますが、1947年(昭和22年)の民法で、婚姻後の名字について改正が成されていたのです。
猪爪家で、家族で、猪爪じゃなくて直井直治、と大笑いしているのがほのぼのしていました。この家族の仲良さは、名字が何になろうが決して変わらない。そんなふうに思わせる場面でした。
寅子が元気になった頃、いつものベンチでお弁当を食べながら、おそらく、花岡来ないなあと思っていたと思うのですが、そこへ想像を絶する知らせが……。
クールに振る舞っている桂場も、実は共亜事件からいろいろあったことが語られます。
女性も大変ですが、男性たちはもっと地獄を見ているのかもしれません。いつも同じ場所でハーモニカを吹いてる傷痍軍人さんもきっと戦場で大変な目にあったのでしょう。
(文:木俣冬)
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