【とにかく観て】実写『サユリ』がホラー映画史上、いちばん面白い「4つ」の理由
お願いがあります。
R15+指定を乗り越えられる、ホラー映画が好きな(興味が出てきた)全ての人は、2024年8月23日(金)より公開中の『サユリ』の上映時間を可及的速やかに調べて、そして観てください。
前置きその1:もう、いいから、とにかく観てください
なぜなら、この映画『サユリ』は後述する全ての要素がガッチリと噛み合って生まれた、とてつもなく怖くて、そして「映画ってなんて面白いんだ!」と再確認できる大傑作だからだ。
筆者はこれまで、この世でいちばん面白いホラー映画は『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021)だと思っていたが、本作はそれを超えた。掛け値なしで全てのホラー映画の中で一番好きであるし、客観的にも『エクソシスト』(1973)や『リング』(1998)や『呪怨』(200)に並ぶホラー映画の歴史を塗り替える作品だろう。
さらには、本作は予備知識をいっさい必要としない。物語で分かりにくい部分も、退屈するスキもいっさいない。唯一人を選ぶとすれば、「刺激の強い殺傷・流血の描写がみられる」という理由でR15+指定がされており、確かに一部のショッキングな描写は容赦がないこと(もちろん必要な描写)であることくらいだろう。
全編に満ち満ちたエンタメ性を鑑みれば「面白い!」と思える可能性は限りなく100%に近いし、ホラーを観慣れていなくても問題ない(むしろそのほうが本気で怖がることができるかもしれない)。だから、もう、R15+指定が乗り越えられる人は観に行ってしまえばいい。
前置きその2:中盤の驚きの展開は知って観てもいいし、知らないままでもいい
初めにここまで絶賛しておいて申し訳ないが、本作は「なんか怖くて面白いホラー映画が今映画館でやってるらしいよ」という、あくまでハードルをあげすぎないテンションで、友達や恋人を誘って観に行ったりするのがいちばん良い。
エンタメ特化の内容であることはもとより、実は中盤にとある「驚きの展開」があり、それは映画の予告編や公式サイトの文言で明らかとなっているのだが、知らず観ればこそ、「スタンダードなホラーかと思ったら、まさかこうなるとは!」という意外性も含めて楽しめると思えるのだ。
その驚きの展開そのものは作品の「売り」でもあり、もちろん知って観ても問題はない。そして、真のネタバレ厳禁の要素は「その後」にある。筆者はここで、映画のあまりの面白さと、後述するとてつもない感動より、目から涙が滝のように溢れてきた。「ここまで素晴らしい映画を届けてくれてありがとう」と、心の中で拝みさえしたのだ。
これ以上は何も知らなくてもいい。何度も言うように、残酷描写にある程度の耐性がある、怖くて面白いホラー映画を求める15歳以上の方は、今すぐに劇場情報を確認して観に行ってください。お願いします。
<『サユリ』劇場情報>
さて、ここからは映画本編の内容に踏み込みつつ、なぜここまでの大傑作になったのかを解説していこう。もちろん決定的なネタバレには触れないようにしたつもりだが、前述したように公式に示されている「驚きの展開」ははっきりと書いているので、ご了承の上でご覧になってほしい。
1:まさかのテンションの高い、このジャンルの作品だった!
この『サユリ』の原作マンガの作者は、アニメ化もされた「ハイスコアガール」でも知られる押切蓮介。2010年から2011年に連載された同作は当時から評判を呼んでおり、実に13年越しの実写映画化となった。
原作も映画も、初めこそ夢のマイホームに引っ越してきた家族が、理不尽な恐怖に遭遇し、それどころか次々に怪死を遂げてしまう……というスタンダードなホラー部分がよくできているのだが、真価は「その後」にこそある。
もうはっきり言ってしまえば、とある最悪な状況下で、認知症が進んでいるおばあちゃんが突如覚醒し、「いいか。ワシら2人で、さっきのアレを、地獄送りにしてやるんじゃ! 復讐じゃあ!!!!」と告げるのである。良くない表現でいえばババア覚醒&復讐&無双ムービーであるが、ここではこう呼ぼう。おばあちゃん超カッコいい系映画の最高峰であると!
中学3年生の主人公は、そのおばあちゃんにとある「教え」を受け、とてつもない力を持つ「サユリ」への復讐に挑む。その様は危うくもあるが、同時に痛快であるし、何より「笑える」。
これまで認知症で何もできなさそうに思えていた(実はちゃんと覚醒に向けての伏線もある)おばあちゃんが突如として「頼れる師匠」になる様が面白いし、そのあまりのテンションの高さのギャップにも笑みがこぼれるのである。
なお、押切蓮介は「邦画のホラー映画はいつもいつも負け戦でスッキリしないことが多い」「人間側がオバケに対して一矢報いる邦画ホラーを自分で作ればいい」という意向で『サユリ』を手がけたことも、原作の後書きで語っている。そんな内容をそのまま今回の映画に大期待して観ればいいだろう。
2:巡り合わせが奇跡とも思える原作者と監督の相性の良さ
本作の監督を務めたのが、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズや『貞子vs伽椰子』など、エンタメ性の高い作品がホラーファンから支持を得ている白石晃士監督というのが、最高の人選という他ない。
その白石監督作品では恐怖の対象にただやられっぱなしじゃない、反撃(復讐)に向かう様が描かれることも多く、前述してきた「おばあちゃんと共に霊に復讐する」ことがミソの原作とはその時点で相性が抜群なのだ。
それでいて、今回の映画の原作からのアレンジも多く、特に家族それぞれの死に様の多くが原作から変わっている。「吹き抜け」を利用した恐怖シーンは絶叫レベルであるし、R15+指定の何よりの原因と思われる「包丁」の使い方も映画オリジナルで、それぞれがトラウマ級の恐ろしさ。ギャグになっていない、「ガチ」の怖さも白石監督史上No.1だろう。
それでいて白石監督の真骨頂と言える、怖さよりも笑いが勝るシーンの数々もまた絶好調。詳細は秘密にしておくが、「突然すぎて笑ってしまう」「白石監督だったらそれをやるよね!」な小ネタがある種のセルフパロディ的でもあり、しかも物語のジャマにもなっていない。白石監督のファンであればさらに手を叩いて喜べることだろう。
ちなみに、押切蓮介は白石監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】』における「口裂け女をバットで追い回すシーン」を観た時点で、「あっ、この監督とは絶対に気が合うな」と思ったそう。
対して白石監督は『サユリ』のマンガを読んだ時点で「自分向きだな〜」と思い、自身の作品の『カルト』や『貞子vs伽椰子』にも近しいものを感じて「日本で撮るなら私しかないだろう」と確信したのだとか。これらの言葉からも、この監督と原作者の相性は抜群どころじゃない、その巡り合わせが奇跡だと思えたのだ。
さらに、押切蓮介は映画初期の脚本(準備稿)段階で意見を述べた一方で、基本的には白石監督に「お好きなように作ってください」とも告げていたのだとか。そして、原作にはない中学生の主人公が反撃のために学ぶ「あること」は、初めは押切蓮介からの提案を受け、白石監督も「これだと“生命力”という原作のコアな部分ともリンクする」という理由で“逆提案”して採用されたそうだ。
原作者と監督の理想的な関係性が築かれていていたとも言えるだろう。
3:本当に中学生に見えるキャスティングも完璧
キャスティングも完璧という他ない。中学3年の主人公を演じたのは、NHK連続テレビ小説「らんまん」で注目された若手俳優の南出凌嘉で、純朴な普通の少年らしさと絶望的な状況から奮闘する心根の強さを見事に表現しており、心の底から応援したくなる。
同級生の霊感のある少女役の近藤華と共に恐怖に立ち向かい、そのうちに淡い恋心が芽生えているかのような、でも友達以上にはなかなかなれない関係性も、甘酸っぱくて魅力的だ。
さらに、おばあちゃん役の根岸季衣が最高であることは言うまでもない。覚醒してのすぐの「すっかり目が覚めてしまったわい」の言い方からカッコ良すぎて笑えるし、車の中で別人のように「アゲアゲ」になる様は爆笑もの。その後も、それらのインパクトを超える、カッコいいセリフやシーンが待ち受けるので楽しみにしてほしい。
その他、梶原善・占部房子・きたろう・森田想・猪股怜生という家族それぞれのキャスティングおよび演技も文句のつけようがない。
ちなみに、同じく押切蓮介原作のホラー映画で高い評価を得ていた『ミスミソウ』(2018)も山田杏奈・清水尋也・大谷凜香という実力のある若手俳優たち、しかも当時の実年齢としても「ちゃんと中学生に見える」キャスティングがされていた。
さらに、同じく田坂公章プロデューサーが手がけた『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)も、南沙良・蒔田彩珠・萩原利久もやはり当時は高校生に見える、その後の活躍も目覚ましい若手俳優が揃っていた。こうしたキャスティングも理想的だろう。
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4:涙が溢れる最高のクライマックス!
そして、もう涙がとめどなく溢れたのはクライマックスの展開だ。もちろん詳細はネタバレになるので秘密にしておくが、理不尽な出来事に遭遇した「その先」の物語として、とてつもない感動があることは告げておこう。その感動は、現在も公開中のアニメ映画『ルックバック』にも似ていた(あるいは相対する要素もある)。
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さらに、このクライマックスでも、原作にはない映画オリジナルの要素がある。それも決して安易なものではなく、原作からあるスピリットを汲み取りつつ、さらに物語の奥行きを与えている。ここで序盤のR15+指定の残酷描写とは正反対の、間接的な表現となっていることも誠実だった。
しかも、それは序盤での家族の死に方、特に主人公の父親の「亡くなった場所」にもリンクしている、計算のもとで打ち出されたアレンジだと振り返って思えるのだ。
さらに、終盤にとあるとんでもないセリフが飛び出すのだが、なんとこれは白石監督の実体験が元ネタだったらしい。小学校5・6年の時に柄の大きな同級生の女の子からある日突然「○○○○○○○○○○○○ってどういう意味?」とニヤニヤしながら問われたそうだ。
その後に白石監督が高校生になった時に生徒会室で同級の女の子が金縛りにあうと聞いて、「今度そうなったら○○○○○○○○○○○○と言うてみて!相手が幽霊だったら絶対に効果があると思う!」と提案し、そう言ったら本当に女の子が金縛りにあわなくなったのだという。
なお、そのとんでもないセリフは直球の下ネタでもあり、その時点ではデートで観ていたりすると気まずくなるかもしれないが、実際は一緒に観た恋人との仲もきっと良くなるであろう、ラブストーリーへと収束していくので安心してほしい。
さらにその下ネタが(賛否があるところもしれないが)、前述した映画オリジナルの要素を相対的に示し、それでもなお「生命力」を肯定するメッセージ性の尊さにもつながっていた。
そうしたクライマックスで、悲しみ、怒り、絶望といった感情すべてを抱きしめて、さらなる感涙のラストが待っている。改めて、なんと素晴らしい映画なのだろうか!
あなたもぜひ目撃してほしい……笑って泣いて、現実で生きるための勇気と希望が持てる、ホラー映画という枠組みさえも超えたこの大傑作を!
ひとりでも多くの方が、劇場へ足を運ぶことを願っている。
(文:ヒナタカ)
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