冬への第一歩にこの映画!『リトル・フォレスト』大自然を生きるヒロインの春夏秋冬

(C)「リトル・フォレスト」製作委員会

秋も深まってきて、朝夕の冷え込みが身に染みる今日この頃ですが、日本ならではの四季の移り変わりを描くことを昔から日本映画は得意としてきました。

今回はその中でも比較的新しい、これからの世代によって作られた瑞々しい四季の映画『リトル・フォレスト』4部作をご紹介したいと思います。

自給自足に近い生活を営む
若きヒロインの心の葛藤

映画『リトル・フォレスト』は、五十嵐大介の同名コミックを原作にしたもので、春夏秋冬と大きく4つのエピソードに分けられ、それを『夏/秋』編(14)『冬/春』編(15)と2回に分けて上映したものです。

舞台となるのは、東北の小さな集落・小森(これは原作者自身が過ごした岩手県衣川村=現在の奥州市がモデルになっています)。

主人公のいち子(橋本愛)は、一時期、都会で暮らしていましたが、その生活になじめずに小森に帰ってきて、今は畑を耕しながら、自給自足に近い生活を続けています。

パンも、ジャムも、ウスターソースまで作れてしまえる彼女は、何でも自分でやってみないと気が住まない性分ですが、一方でどこか自分は都会から逃げてきたという心の負い目もあるようです。

第一部の前半となる『夏』編では、養魚場でアルバイトをし、ビニールハウスではなく効率の悪い露地栽培でトマトを育てるいち子の姿が描かれます。

続く『秋』編では、5年前に突然家を出ていった母のことを回想していきます。料理も含めてさまざまなことを母から教わってきたいち子は、その中で雑草をほったらかしにしたままの農作業などに疑問を抱いていましたが、やがてその理由に気づかされていくのです。

第2部の『冬』編では、深い雪に覆われる小森のクリスマスから正月と慌ただしい行事が続く中、今まで他人と向き合ってこなかったことを自省するいち子とその友人たちの関係性が描かれます。

ようやく梅や桜が満開となる『春』編では、山に入って山菜などを摘みながら、いち子はそれまでの母の苦労を想い忍んでいきます。

そして月日が経ち、5年後……。

四季折々の風物を紹介しつつ
人生そのものの機微を描出

このように、大自然の中で自分の人生と真摯に向き合い、悩み、悟り、希望を見出していくいち子の姿を静謐に描いていく『リトル・フォレスト』4部作ですが、同時に四季折々の食材や風物詩などに着目しながら、それらを魅力的に描いているのも大きな特徴です。

『夏/秋』編では、トマトやアケビの実、クルミ、イワナなど、『冬/春』編ではカボチャ、納豆餅、干し柿、山菜、タマネギなどなど、見ているだけでおなかが空いてくるほどの楽しさです。

また、そういった四季の営みと調和しながら健気に生きるヒロインを橋本愛が演じています。これはプロデューサーの守屋圭一郎曰く「何かと必死に戦っている感じがした」と、企画当初から彼女の起用を念頭に置いていたとのこと。その期待に見事応えた等身大の好演で(料理シーンも全て、彼女が自ら行っています)。彼女の友人役となる松岡茉優や三浦貴大などの若手俳優らの魅力も見逃せないところでしょう。

監督は『Laundry』(02)や『重力ピエロ』(09)など若者たちの繊細な機微を描出することに長けた森淳一。ここでも四季の中で健気に活きるヒロインの心の葛藤を優しく見据えながら、いつしかこの映画を見る人々にもなにかしらの癒しや希望、心の温かさなどを与えてくれています。

撮影も原作と同じ岩手県奥州市衣川区大森にて、実際に春夏秋冬の1年間を追いながら、撮影を敢行。

シンガーソングライターのyuiが、自ら参加するバンド“FLOWER FLOWER”による《春》《夏》《秋》《冬》の4曲を書き下ろし、それぞれの編の主題歌としていますが、こちらも映画の余韻をいっそう心地よいものにしてくれています。

本作の素晴らしいところは、一見ユートピアのように思われがちな田舎の生活ですが、実はその中で喜怒哀楽の葛藤と共に生き続けるヒロインたちの日常を見事に描出した“今”の映画足り得ていることでしょう。
いち子は自分が都会から「逃げてきた」と悩み続けていますが、映画は決して現実逃避することなく、昔も今もどこか危うげな若者たちの心情を切々と描くことに成功しています。

見る者に癒しを与えつつ、どこかしら元気をもたらす『リトル・フォレスト』4部作、見る人もまた春夏秋冬それぞれの違いによって印象も微妙に、そして楽しく異なること必至でしょう。

[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2017年11月10日現在配信中)
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(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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