映画コラム

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2020年10月31日

『パピチャ』レビュー:“暗黒の10年”にファッションショーは開催できる!?

『パピチャ』レビュー:“暗黒の10年”にファッションショーは開催できる!?



(C)2019 HIGH SEA PRODUCTION - THE INK CONNECTION - TAYDA FILM - SCOPE PICTURES - TRIBUS P FILMS - JOUR2FETE - CREAMINAL - CALESON - CADC 



今、私たちは普通に暮らし、普通に遊び、普通にオシャレをし、映画でもライヴでも何でも普通に見に行けたりしています(コロナ禍ということは、とりあえず置いといて……)。

しかし、その“普通”がなくなってしまう不安と恐怖を考えてみたことがあるでしょうか?

本作『パピチャ 未来へのランウェイ』は、私たちが通常知っている“普通”が失われていた1990年代のアルジェリアで青春を謳歌しようと前向きにもがき続ける少女を主人公とした映画です。

さまざまな規制や検閲による恐怖に支配されていた暗黒の社会の中、彼女がやろうとしていたこととは……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街516》

ファッションショーなのでした(しかも命がけの!)

動乱の1990年代アルジェリアで
抑圧&迫害される女性たちの青春




(C)2019 HIGH SEA PRODUCTION - THE INK CONNECTION - TAYDA FILM - SCOPE PICTURES - TRIBUS P FILMS - JOUR2FETE - CREAMINAL - CALESON - CADC 




『パピチャ 未来へのランウェイ』のストーリーを記す前に、この作品は舞台となる“暗黒の10年”と呼ばれていた時期のアルジェリアの状況を知ってから触れた方が得策かとも思われます。

アルジェリア民主人民共和国は北アフリカのマグリブに位置した共和制国家で、地中海を隔てて北にフランスが存在しています。

かつてアルジェリアは1830年よりフランスの侵攻を受けて植民地となっていましたが、やがて独立運動が激化し、1954年よりアルジェリア戦争が勃発。そして1962年、ついに独立を達成します。

この後、同国は社会主義政策を敷きますが、1980年代の後半になって石油価格の下落による経済闘争から民主化を求める声が高まり、反体制運動が激化。

そしてついに社会主義を放棄して一党独裁から複数政党制を導入するのですが、このとき台頭したのがイスラーム原理主義を信条とするFIS(イスラーム救済戦線)で、90年の地方選挙と91年の国民議会選挙で圧勝。

しかし当時の軍部主導の政府はこの選挙を無効化し、FISを非合法化し、弾圧してしまいます。

これに憤ったFISからMIA(武装イスラーム主義運動)が生まれて武装化が始まり、まもなくしてそれはGIA(イスラーム武装化集団)とAIS(イスラーム救済軍)に分裂。

双方は派閥争いを含む暗殺や誘拐などのテロを繰り返し、結果として1999年までに15万人もの一般市民の犠牲者を出していくのでした……。

『パピチャ』は、こうした不穏な時期にファッションデザイナーを目指す大学生ネジェマ(リナ・クードリ)を主人公としたものです。

大学の女子寮に住む彼女は、ナイトクラブでドレスのオーダーメイドの依頼を受けるバイトをしていましたが、女性の自立はおろか人権をもないがしろにする当時の過激派や、彼らの思想に感化されて原理主義に傾く多くの民衆の目を盗みながら、こうした行動を取り続けるのは、非常に危険を伴うものがありました。

そんなあるとき、ジャーナリストの姉リンダが過激派原理主義者の女性に殺害されてしまいます。

悲しみに暮れるネジェマは、姉が絶命するときにまとっていた血まみれの白いハイク(北西アフリカのムスリム女性が着用するシルクでできた伝統的な衣服布。白いハイクは年配女性の日常着で、リンダが持っていたものは母親のものでした)に触れているうちに、このハイクだけを用いたファッションショーを催そうと決意し、寮の友人らと準備を進めていくのですが、これもまた彼女たちにとっては命の危険すら伴いかねない行為でもあったのです……。

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