【没後20年】名匠・野村芳太郎監督が遺した珠玉の3作──“観る者を撃ち抜く”映像美と人間ドラマ

金曜映画ナビ

🎬今なお心を揺さぶる監督、野村芳太郎という存在

「映画の良し悪しは観客が決める」──この信条を貫いた映画監督が、かつて日本映画界に存在していた。

野村芳太郎。

松本清張との黄金タッグをはじめ、社会派ミステリーから風刺喜劇、そして家族ドラマまで、あらゆるジャンルで観客を魅了し続けた名匠である。

今年2025年、野村芳太郎監督がこの世を去ってからちょうど20年を迎える。

没後20年を機に、改めて彼の功績と魅力を深掘りし、映画史に燦然と輝く彼の“珠玉の3作品”を紐解いていこう。


🎥名匠の軌跡:助監督から社会派巨匠へ、野村芳太郎の生き様

1919年、映画監督・野村芳亭の息子として生まれた野村芳太郎。

幼少期から映画の空気を吸って育ち、慶應義塾大学を卒業後、松竹大船撮影所に入社。

戦後、黒澤明監督の助監督を務め、「日本一の助監督」と称される。

1952年に『鳩』で監督デビューを果たすと、1958年の『張込み』で一躍名声を得る。

以降、松本清張原作の『砂の器』『鬼畜』『事件』など、重厚なテーマを描きながらも、人間の情と罪を浮き彫りにする演出で観客の心をつかんだ。

野村作品は、常に“人間”を描いている。

愛と業、罪と赦し。

静かな日常に潜む暴力性と、哀しみすらも飲み込む映像美。

まさに「人間ドラマの巨匠」である。


🚗愛と罪が交錯する心理ミステリー──

『影の車』(1970年)

(C)1970 松竹株式会社

『影の車』は一見、平凡な家庭を築いている中年サラリーマン・浜島(加藤剛)が主人公。

しかし彼はかつての恋人・泰子(岩下志麻)との再会を機に、不倫関係へと足を踏み入れます。

しかし泰子には6歳の息子がいました。

無垢な子供の存在が、浜島にとっては“告発者”のように思え、やがて彼の心には幻覚や妄想が押し寄せます。

フラワー教室を開く妻(小川真由美)との間で築いた安定した日常と、泰子との禁断の関係。

2つの現実のはざまで揺れる男の“罪悪感”が、徐々に視覚化されていく描写が本作の最大の魅力です。

そして、タイトルの“影の車”は、罪を犯した者がどこまでも逃げられない運命を象徴するもの。

人間の心にひそむ闇がじわじわと浮かび上がるような演出は、野村芳太郎監督の真骨頂といえるでしょう。

(C)1970 松竹株式会社


👹父は“鬼”か、それとも“人間”か──

『鬼畜』(1978年)

(C)1978 松竹株式会社

松本清張原作の短編を映画化した『鬼畜』は、日本映画史に残る衝撃作です。

緒形拳演じる主人公・宗吉の“父親としての倫理”と“人間としての弱さ”が観る者の胸をえぐります。

妻・お梅(岩下志麻)との間に子はなく、宗吉は愛人・菊代(小川真由美)に3人の子供を産ませていました。

だが商売の失敗により、菊代が子供を連れて正妻のもとへ押し寄せてくる。

突然の現実に直面し、宗吉とお梅、そして幼い3人の子供たちの“地獄の同居生活”が始まるのです。

末っ子の死、長女の置き去り、そして長男・利一との逃避行。

父親の手で命を奪われようとする息子の目線から描かれるサスペンスは、痛ましく、胸が張り裂けるような切なさを生み出します。

とくに新幹線での旅、北陸の海岸でのラストシーンは、映像としても名高く、観た人の記憶に深く残ります。

親子とは何か?愛情とは何か?を真正面から問うた傑作です。

(C)1978 松竹株式会社

(C)1978 松竹株式会社


『配達されない三通の手紙』(1979年)

✉️毒入りの手紙が告げる“未来の死”──

(C)1979 松竹株式会社

山口県萩市の名家・唐沢家で起きる毒殺事件。

その引き金となるのが、未来の日付で書かれた「三通の手紙」。

この奇怪な予告文が、物語にミステリアスな緊張感を与え続けます。

紀子(栗原小巻)は3年前に婚約者・敏行(片岡孝夫)に捨てられ、精神を病んでしまいます。

敏行が戻ってきたことで笑顔を取り戻し、家族の反対を押し切って結婚。

やがて家族の中に波風が立ち始める中、妹の恵子(神崎愛)と訪問中のボブ(蟇目良)が見つけた“未来の死”を記した手紙が、唐沢家に不穏な影を落とし始めます。

毒物学の本、奇妙な日付の手紙、そして予告通りに起こる事件──。

すべてが仕組まれた筋書き通りなのか?

野村芳太郎監督は、アメリカの本格ミステリー『災厄の町』を、日本的な情緒と格式で包み直し、美しい日本家屋と登場人物たちの心の闇を見事に交錯させました。

クライマックスで明かされる真実は、観客にゾクッとした衝撃を与えることでしょう。

(C)1979 松竹株式会社

(C)1979 松竹株式会社


🎞️野村芳太郎という“心を撃つ名匠”の存在

野村芳太郎監督は、映画を通じて人間の本質、社会の闇、心の弱さと向き合い続けた監督でした。

松本清張との名コンビで生み出した作品群は、現代にも強く響く“問い”を私たちに投げかけます。

『配達されない三通の手紙』で描いた家族の秘密と因果。
『鬼畜』で浮かび上がる親子の“悲しき業”。
『影の車』で示された愛と罪の境界線。

どの作品も、娯楽としてのミステリーやサスペンスでありながら、観たあとに心の奥に静かな波紋を広げていきます。

今こそ観るべき珠玉の3本。


野村芳太郎という“日本映画の巨人”に、もう一度触れてみてはいかがでしょうか。


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『影の車』
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