2021年05月18日

『藍に響け』レビュー:“和太鼓と女の子”といった興味の域を越えたストイックで秀逸な青春群像映画

『藍に響け』レビュー:“和太鼓と女の子”といった興味の域を越えたストイックで秀逸な青春群像映画


■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

すたひろの漫画『和太鼓♰ガールズ』を原作としながらも、“和太鼓と女の子”といったモチーフこそ活かしつつ、かなり設定を変えて『藍に響け』という映画独自のタイトルに転じさせるに見合う、ストイックで秀逸な青春群像映画に仕上がっています。

本作の奥秋泰男監督は長編映画デビュー作『かぐらめ』(15)で神楽をモチーフにしていましたが、今回の和太鼓といい「和」と「青春」の融合に興味があり、またそこに才を発揮しやすい資質の持ち主なのかもしれません。



正直、最初はミッション・スクールを舞台にあからさまな美少女ばかりが登場してくるあたりに照れ臭さみたいなものも感じましたが、登場人物それぞれの悩みやら不安やら、またそれらを突っぱねながら毅然と立ち振る舞おうとする思春期のいじらしさなどが真摯に描出されていくので、すぐさま気にならなくなっていきます。

とどめを刺すのが筒井真理子扮する教師の存在で、それこそ奥秋監督の『かぐらめ』にも出演していたので今回は特別出演的な扱いかと思いきや、中盤から一転して鬼コーチと化して部員らをスパルタ指導でしごきにしごいていくそのインパクト(ホント、前半部の穏やかだった表情がガラリと変わるおっかなさ!)が、一気に映画の世界観をシビアなものへ導いてくれています。

同時に、それまでもストレンジャー的なオーラを出しまくっていた主人公の環(紺野彩夏)がここからギスギス・キャラとして台頭していくようになり、どちらかといえば和気あいあいとしていた部内の空気が不穏なものと化していくあたり、一歩間違えば悪役然としてしまうところ、もう一人の主人公マリア(久保田紗友)との魅せ方のバランスによって巧みに回避されているのも、さりげなくも唸らされるところ。

鎌倉を舞台にしつつ、その海を徹底的に淀んで薄暗いものとして描き、そこで両者が激しく葛藤し合うあたりも、まだまだ幼くもある10代のプライドやそれゆえの切なさみたいなものが健気に醸し出されていました。



太鼓の練習風景シーンでは、その音を聞くだけでこちらのような素人にまで調子の良し悪しがわかるように思わせてくれるのも嬉しいところで、その最終系となるクライマックスでは演奏する女の子たちそれぞれが美少女云々の粋を優に超えて実に活き活きと輝いている様を、春木康輔のキャメラが巧みに捉えてくれています。

主演ふたりはもとより、ここに登場する若手キャストたちの次の作品も見てみたいと思わせてくれる、それだけでもこの作品は成功ではないかと思えてなりませんでした。

(文:増當竜也)

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(C) すたひろ/双葉社 (C) 2021「藍に響け」製作委員会

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