俳優・映画人コラム

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2021年08月27日

女優・石川瑠華の魅力:清純派から体当たり演技まで3つのポイントで振り返る"変幻自在な表現力"

女優・石川瑠華の魅力:清純派から体当たり演技まで3つのポイントで振り返る"変幻自在な表現力"



3:陰と弱さをも感じさせる雰囲気


「陰と弱さをも感じさせる雰囲気」も彼女の重要な魅力だ。



空き家に住み着いた若者たちと彼らの退去を要請しに来た役員とのワンシチュエーション短編映画『stay』(21)で、彼女は若者の一人・マキを演じている。
若手俳優陣の演技アンサンブルともいえる本作でも彼女は物語を支える大きな柱になっているのだ。
終始、明るい様子の彼女だが、その笑顔にはどこか陰を感じさせる。
入れ替わりが激しい空き家生活の中で処世術を身に着けたのか、他者に深入りしすぎないような彼女の言動や立ち振る舞い、そして、台所に立つマキの後ろ姿には、そのバックボーンでさえ想像させられ、短編映画ながらも人物の深みが感じられるのだ。



『猿楽町で会いましょう』(C)2019 オフィスクレッシェンド

また、『猿楽町で会いましょう』では"陰のある彼女の魅力"がより浮き彫りになっていた。
本作で彼女は東京で読者モデルとして活躍するユカを演じている。
新人カメラマン・小山田の視点で進められる序盤、ユカは掴みどころのないミステリアスな女性として描かれていくが、中盤以降、その背景が描かれることで彼女の本当の姿が明かされていくのだ。

正直、『ビート・パー・MIZU』や「水曜日22時だけの彼」で彼女の演技に惹かれた筆者としては、鑑賞後、かなりズドンとくるものがあった。
周囲には気丈に振舞いながらも弱く脆い一面を持ち、ギリギリのバランスで東京の街で生きるユカ。

その儚げな表情や彼女が経験する残酷すぎる現実に、心がえぐり取られるような痛みを感じたのだ。
これまでの作品にはなかったダークな魅力を存分に生かし、R15指定も納得の体当たり演技でユカそのものになりきった石川瑠華。

その挑戦は最新作『うみべの女の子』にも繋がったといえるだろう。

(C)2021「うみべの女の子」製作委員会

『うみべの女の子』
で彼女が演じたのは中学2年生の女子・佐藤小梅。
中学生同士の性描写を描いた本作において、幼さと大人びた危うさを併せ持つ彼女の起用は間違いなかったといえる。

なぜなら、本作で映し出されているのは実力派若手女優がなりきった女子中学生ではなく、もはや、どこにでもいる等身大の女子中学生・佐藤小梅だからだ。
(本作の挿入曲"はっぴいえんど"の「風をあつめて」をリーガルリリーがカバーしたMVでも劇中の彼女の姿を垣間見ることが出来る。)



ある意味では、これまでの集大成ともいえる複雑な人物を見事に憑依させた石川瑠華。
あまりにも生々しい中学生の残酷な現実を描く本作では、鑑賞後に激しい痛みを抱える人も多いだろう。

しかし、映画の中で実際に生きる人物たちを目の当たりにした時、あなたは自分の人生について、改めて考えてしまうのではないだろうか。

石川瑠華は過去のインタビューで「自分にとって映画の魅力とは何か」と問われた際、「メッセージを受け取って、自分が生きていく力に変えることができるもの」と答えていた。

彼女の言葉がまさしく当てはまるような映画が『うみべの女の子』であり、だからこそ、本作は少しでも多くの方々に届くべき一作なのだ。


清純派から体当たり演技まで、紆余曲折の役者人生を通し、着実に表現できる役柄の幅が広がり続ける女優・石川瑠華。

その"変幻自在な表現力"で、この先、どのような演技を見せていくのか。
同世代の人間として、今後の彼女の活躍にも期待したい。

(文:大矢哲紀)

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