<2021年の映画音楽たちベスト10>胸を高鳴らせたのはコレだ!


6位『Mr.ノーバディ』より「Everyone Dies」/デヴィッド・バックリー


(C)2021 Universal Pictures
正直に書くと主観ショットのみの『ハードコア』(2017年日本公開)は酔いに酔ってしまい、“苦手な作品”にカテゴライズされてしまった。しかし同じイリヤ・ナイシュラーが監督した『Mr.ノーバディ』は、上半期公開作品の中で断トツに楽しめた1本。

主演のボブ・オデンカークがまさにハマり役で、“一見ごく普通の中年男がブチギレて大暴れ”という物語の大筋に説得力を与えることに見事成功・貢献している。その正体は誰でも序盤で気づけるような展開だが、それでも一切飽きさせることなくクライマックスまで駆け抜けるのだからめっぽう面白い。

音楽を担当したデヴィッド・バックリーは、ハンス・ジマー一派かつハリー・グレッグソン=ウィリアムズの下で修業を積んだ人物。それだけにクライマックスバトルの「Everyone Dies」はジマーとハリー・グレッグソンの“いいとこどり”なロック調のアクションスコアで、本作サントラどころかバックリーの作品群の中でも激アツな部類に入る。

そもそも考えてみてほしい。ブチギレたオデンカークにラッパーのRZA、嬉々としてショットガンをぶっ放すクリストファー・ロイドの3人が並んだ絵面なんて、その時点で大勝利確定ではないか。そんな映像とアクションを支える音楽が、生半可なものであるはずがないのだ。

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5位『街の上で』より「エンドロール」/マヒトゥ・ザ・ピーポー


(C)「街の上で」フィルムパートナーズ
ここまでスっと観客の心に入ってくる群像劇があっただろうか、と感じるほど下北沢の空気感とキャラクターの息遣いがしっかり作品に落としこまれている『街の上で』。

ほどよい距離感を保ちつつ役者をフィルムに収める今泉力哉監督の真骨頂ともいえ、若葉竜也を中心に穂志もえか・古川琴音・萩原みのり・中田青渚の女優陣が絶妙なバランスで絡み合う。フレッシュなキャストを揃えてなお肩肘張ることなく鑑賞できる作品であり、コントを見ているような(劇場では実際にあちこちから笑い声が漏れていた)淡々と落ち着き払った空気感もまた大きな魅力だ。

マヒトゥ・ザ・ピーポーが歌う「エンドロール」は、若葉演じる荒川青がふらりと立ち寄ったライブハウスで流れる楽曲。流れる、というよりもマヒトゥ・ザ・ピーポー本人がアコースティックギターを奏でながらしっとりと歌いあげている。

おそらく「エンドロール」は聴く人によって受け止め方が異なり、青のようにじっと聴き入る人がいればカレン演じる“メンソールの女”のように一筋の涙をこぼす人もいるかもしれない。「エンドロールに名前がなかった 名前がなかった だからぼくら 旅を続けなくちゃ 旅を続けなくちゃ」という歌詞が染み入ると同時に、見果てぬ世界を夢見させてくれるように想像力を湧きたたせてくれる。

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4位『竜とそばかすの姫』より「歌よ」/中村佳穂


(C)2021 スタジオ地図
『時をかける少女』以降ヒット作を量産し続ける細田守監督の『竜とそばかすの姫』は、現実の世界と巨大な仮想世界「U」を舞台にした作品。

母親を失ったことがきっかけで歌をうたえなくなった少女・すずが、「U」で歌姫ベルとして世界中から支持を集めることに。すずとベル役にはシンガーソングライター・中村佳穂が抜擢され、すずの日常シーンはもちろんベルの歌唱シーンでも中村の圧巻のパフォーマンスが響き渡る。

本作からの選曲において「メインテーマの『U』じゃないのかよ」と言われてしまいそうだが、ここは敢えて中村が作詞した「歌よ」を推したい(もちろん『U』も素晴らしくて大好きな1曲)。

劇伴担当の1人ルドウィグ・フォシェルが作曲・編曲を手掛けた「歌よ」は、ベルが歌うボーカルナンバーながらントラでは前半パートでオーケストラによるスケール感たっぷりのサウンドが流れる。ベル(すず)と観客が巨大な仮想世界を目の当たりにした時の高揚感に相応しい楽曲であり、大切な人を失った心情を歌い上げるベルのパフォーマンスシーンへとつながっていくシームレスな流れは実にスマート。

特に中村の歌声と壮大なオーケストラサウンドが融合したサビは圧巻で、観客は「U」の世界に誘われると同時にベルというキャラクターに共感できるはずだ。動画は中村による本曲のピアノ引き語りMVをどうぞ。



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