俳優・映画人コラム

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2022年01月22日

伊東蒼のアンニュイな魅力:『さがす』から紐解く女優人生の変遷

伊東蒼のアンニュイな魅力:『さがす』から紐解く女優人生の変遷


『湯を沸かすほどの熱い愛』の伊東蒼:天才子役としての頭角を現した伝説的作品


(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)で伊東蒼が演じたのは、幸野双葉(宮沢りえ)を置いて出ていった旦那・幸野一浩(オダギリジョー)の浮気相手の娘・片瀬鮎子。

複雑な家庭環境な上、双葉の娘である安澄(杉咲花)への惜しみない愛情を目の当たりにし、子供らしからぬ悟りを開くその姿に、見ているこちらまで罪悪感に苛まれるような感覚に陥る。
とある出来事をキッカケに双葉・安澄との距離がぐっと縮まり、血の繋がりがない家族に馴染んでいく変遷には思わず涙が止まらない。

なによりも、当時11歳にしてここまで難解な役どころを違和感なく演じられていること、間違いなく天才子役としての頭角を現した伝説的作品と言える。

この時すでに”女優・伊東蒼”が完全にできあがっていた。年齢通りの幼さはたしかに感じられるのに、すでに子供とは思えないただならぬ陰が垣間見えるあたり、女優としての計り知れない可能性を感じられる1本だ。

『空白』の伊東蒼:脳裏に焼き付くずば抜けた存在感


(C)2021「空白」製作委員会

『空白』(21)で伊東蒼が演じたのは、スーパーで万引きをしようとしたところを店長・青柳直人(松坂桃李)に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれてしまう中学生・花音。

序盤で早々に事故死をしてしまう役どころなので、回想シーンはあるもののメインキャストと比較すると出演時間は少ない。にも関わらず、劇中、いや鑑賞後も伊東蒼の姿が頭から離れなくなる。

複雑な家庭環境に置かれた役どころから、『湯を沸かすほどの熱い愛』の鮎子を想起させる。あれから5年、少し大人になった伊東蒼。純粋に、女優としてのただならぬ進化を感じた。

狂乱すぎるモンスター父親・充(古田新太)に毎日ビクビクしながら過ごし、唯一の味方である母・翔子(田畑智子)とは思うように会えない日々が続き、学校でも孤立してしまう花音。万引きしようとした事実は一旦置いておいて、その矢先に亡くなってしまうという、残酷すぎる運命に落胆してしまう。

自身の感情や主張をうまく表現できない”生きづらさ”を見事体現し、古田新太や松坂桃李、寺島しのぶなど大御所俳優をも差し置いた脳裏に焼き付くずば抜けた存在感に脱帽だ。

天才子役から唯一無二の演技派女優へ


(C)2022「さがす」製作委員会

『湯を沸かすほどの熱い愛』や『島々清しゃ』で天才子役と称され、2021年以降『空白』や『さがす』で唯一無二の演技派女優へと仲間入りを果たした伊東蒼。

前述した作品やドラマ「それでも愛を誓いますか?」で一貫して共通しているのは、片親しかいない、両親がいない、親が何かしらの問題を抱えているなど、複雑な家庭環境に置かれた中で生まれる葛藤や寂寥を、幼さも残しながらしっかり醸し出しているということ。
そんな伊東蒼のアンニュイな魅力には、誰にも真似できない個性が詰まっている。

これからどんどん大人の階段を登っていく彼女は、さらなる経験を積み、どれほどまでの大物女優になってしまうのだろうか。期待を通り越して、もはや少し恐ろしくもある。

『さがす』を観に行く方は、というか、絶対に観に行ってほしいのだが、できれば過去作も習得したうえで伊東蒼の女優人生の変遷を見届けていただきたい。

(文:桐本絵梨花)

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