映画コラム
【スタジオA24】思わずゾッとする映画「5選」
【スタジオA24】思わずゾッとする映画「5選」
『ミッドサマー』(C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
A24が贈る最新ホラー『X エックス』が7月8日(金)に公開された。A24といえば世界の映画ファンを虜にしている新進気鋭の制作スタジオで、日が沈まない美しい青空の下で繰り広げられる人間の狂気を描いた『ミッドサマー』のヒットが記憶に新しい方も多いのではないか。
A24では『レディ・バード』や『mid90s ミッドナインティーズ』など若さゆえの淡さや切なさを孕んだ青春映画でも数多くのヒット作を生み出しているが、やはりこのスタジオが持つセンセーショナルな奇抜さが最もよく表れているのは、ホラーやスリラーといった「恐怖」を畳み掛けるような作品群だろう。
映画において、ある種ワンパターンになりがちなホラージャンルだが、本来は一概に恐怖といっても、実際にはさまざまな怖さがある。霊的な怖さ、人間の裏切りの怖さ、その他ストーリーよりも音響や照明など演出の怖さもある。こうした怖さを作品ごとにカラーを変えて、多角的に表現し続けているのが配給会社A24なのである。
今回はA24の生み出した「ゾッとする映画5選」を選出した。決定的なネタバレは極力避けているが、物語の細部まで初見で楽しみたい方は、鑑賞後に読むことをおすすめする。
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1:『イット・カムズ・アット・ナイト』
最初のおすすめは、『WAVES』『クリシャ』など他A24作品でもお馴染みのトレイ・エドワード・シュルツ監督の長編『イット・カムズ・アット・ナイト』。こちらは世界観がかなり壮大で、謎のウイルスが全世界で流行し、生き残った人たちは感染を防ぐために、他者と接触せず隠れて暮らすという、奇しくも近年の情勢とも重なる設定となっている。
防護スーツ、マスク、手洗いの徹底。そんな世界で、2つの家族が協力しあって人里離れた森の中で暮らすことになる。「自分の家族を守る」ために他人同士が最低限の環境の中で身を寄せ合うのだが、ある日家族同士の関係がガラリと変わるとある事件が起こってしまう……。
『イット・カムズ・アット・ナイト』(C)2017 A24 Distribution,LLC
この映画の怖さは、ゾンビものやウイルスものによくある「誰が感染しているのかがわからない」というトランプのババ抜き的な恐怖に止まらない。世界観だけではなく、既出の情報が果たして本当なのか、信頼できない語り手の技法で観る者を疑心暗鬼に陥らせるような物語の構図にも深く惹きつけられるだろう。特に、作中のとあるカットと対比になる最後のワンシーンにゾッとさせられること間違いなしだ。
2:『ライトハウス』
ロバート・パティンソンが主演を務めたことで話題を集めた『ライトハウス』もこの夏のおススメ恐怖映画である。監督のロバート・エガースの作品で言えば、鮮烈なデビューを飾った『ウィッチ』も印象的だ。『ウィッチ』の不穏な空気は本作にも継承されていて、『ライトハウス』はいわゆる「王道のホラー映画的な怖さ」はあまりなく、どちらかというと「狂気」に満ちた物語のイメージを持った。
灯台守として4週間にわたって灯台と島の管理を行うことになった2人の男。ベテランの中年男と経験不足の若者が衝突を繰り返す中、嵐が島を襲う。助けが来る見通しも立たず閉鎖された灯台で少しずつ男たちは狂っていく。
『ライトハウス』(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.
作品に緊迫感を生み出す、全て白黒且つ細長い画角で描き出される、特殊な映像。会話の中に度々登場する神話のモチーフから想像出来る比喩や、2人の飲む「とある液体」の正体に背筋が凍る。一度見てしまうと絶対に忘れられない狂気が、我々を虜にするのだ。
3:『ミッドサマー』
冒頭でも触れた通りA24を代表するタイトルとなり、社会現象にもなった『ミッドサマー』。こちらはすでに多くの人が観ているのは承知のうえで、それでも紹介させてほしい。
『ミッドサマー』の監督、アリ・アスターは家族をテーマとした作風のホラー/スリラー作品を得意とする。『ミッドサマー』では家族や共同体の繋がりをテーマに、カップルが村の民族的なしきたりに巻き込まれていく。少し話が脱線するが、『ミッドサマー』を視聴済みの方にこそお薦めをしたい(そして是非2回目を観てほしい)のがYouTubeに上がっているアリ・アスターの短編映画だ。
ディズニーの人気映画、トイストーリー3の世界をオマージュした『Munchausen』(ミュンヒハウゼン)家族の地獄、歪む父と子の姿を描いた『The Strange Things About The Johnson's』(ジョンソン家の奇妙なこと)、鍵から始まる恐怖の物語『Beau』(ボウ)の3編はいずれも10分あれば楽しめる長さではあるが、ミッドサマーの根底に繋がる徐々に迫り上がる恐怖感が凝縮されている。
『ミッドサマー』(C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
主人公ダニーの依存先として描れるホルガ村は、特別特異な環境として描かれているものの、傷ついた時に自分を肯定してくれる依存先に頼りたくなる心理自体は多くの人が持ち合わせているものなのではないか。短編映画も含めて、アリ・アスターのホラーの持ち合わせる暗さは、実は私たちの心に常に眠っている要素だと気がついたときに、筆者は薄ら寒さを感じた。
4:『ヘレディタリー/継承』
『ヘレディタリー/継承』も同じく『ミッドサマー』のアリ・アスターが監督を務めた。しかし、『ヘレディタリー/継承』に至っては比較的王道なホラー作品の仕様になっており、中でも作中のあるワンシーンがトラウマ級に恐怖を煽る。(観た方に向けて言うのであれば「あれ」が落ちるシーンだ笑)
一家の年長者だった老女の死後、家族の中で怪奇現象が起こり始める。老女が溺愛していた13歳の孫娘が異常行動をとり始め、やがて物語は衝撃的な事件へと繋がっていく。中でも母親アニー役のトニ・コレットの恐怖に慄く表情は、家の中の恐怖を伝染させ、観る者までを戦慄させるだろう。
『ヘレディタリー/継承』(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
しかし、さすがはアリ・アスター。王道なホラーの演出を踏襲しつつもストーリー展開は凡庸なホラー映画としては纏まらず、「え?この映画の着地ってこうなるの?」という予想外のラストが待っている。
『ヘレディタリー/継承』も家族がテーマとなっている作品なので、ぜひ同じA24の『ミッドサマー』や監督の他短編と合わせての視聴をおすすめする。
5:『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』
『ロブスター』『籠の中の乙女』のギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したサスペンス・スリラー『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』。
ヨルゴス・ランティモスの世の中の不条理を描く作品世界が筆者はとてつもなく好きなのだが、今回も例に漏れず1人の少年によって幸せな家庭がゆっくりと壊されていく様を描いている。
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited
美しい妻と2人の子どもと満ち足りた生活を送る心臓外科医の主人公。彼は家庭の外で、ある少年を何かと気遣っており、ある日、彼は家族に紹介する。少年と家族の距離は段々と近づいていき、奇妙な関係性が構築されていく。
ズームインとアウトを多用するカメラワークはバリー・コーガン演じる少年、マーティンの視点での監視を彷彿とさせる気味悪さがある。見た目は普通の少年なのに、後半になると登場するだけでペニーワイズ並みの恐怖を煽るこの少年の存在感の凄まじさにも目が離せなくなってしまう。
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited
「大きい音やいわゆる心霊系のホラー作品は苦手」「難解な世界観を解いていくような作品が好き」という人にはぜひお勧めしたいスリラー作品である。前述したアリ・アスターの2作品と比較すると、「家族」が内部から壊れていくホラーと言うよりは、外部の圧倒的な異分子によって幸せな家族の歯車が少しずつ狂っていく様子が差分として面白さを感じられるポイントだろう。少年マーティンに振り回される恐怖を、ぜひ一緒に体感してほしい。
以上、今回はA24のゾッとする映画5選を紹介した。暑い日々はまだまだ続くが、ぜひお気に入りの映画と共にこの夏を乗り切りたいところである。
最新作『X エックス』を含め、予想の斜め上をいく恐怖を生み出すA24のこれからのホラー・スリラージャンル作品への期待は高まるばかりだ。
(文:すなくじら)
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