(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会
(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

インタビュー

インタビュー

2022年07月27日

『アイの歌声を聴かせて』の「神PV」はこうして生まれた!予告編ディレクター・横山裕一朗ロングインタビュー

『アイの歌声を聴かせて』の「神PV」はこうして生まれた!予告編ディレクター・横山裕一朗ロングインタビュー


開始6秒でいきなり「面白い」

――なるほど。そこから、どのようにPVを構成していったのでしょうか。

横山:まず、構成としては初めの6秒くらいに、何か面白いと思わせることを起こそうとしました。具体的には、いきなりヒロインのシオンが「今、幸せ?」と、そのかわいらしさを見せ、作品レビューでの話題性や、客観的な満足度を訴求します。

その直後に、そのシオンがお腹から機械を出して、バグるというか機能停止します。本編をご覧になった方には笑っていただけたら嬉しいし、未見の方には「この子ロボットなの?」サトミたち同様に「ええーっ!?」と驚いていただけたらなと。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


――その6秒で、いきなりコメディとして面白い感じがします。

横山:他にも、シオンがボールをすごい速さで投げたりとか、黒板に難しい式をスラスラと書いたりとか、人ならざる存在であることをコメディタッチで見せるシーンを入れました。シオンのパワーを際立たせたくて、本編上にはない効果音も追加しています。柔道技をかける瞬間、テンポに合わせて「衣擦れ」の音を追加したり、ボールを投げるシーンに「ズバン!」と勢いある音を入れたり。

――本当だ! 言われて初めて気づきました!

横山:あとは、PVの前半では「AIと高校生の楽しい青春ムービーです」という部分を推したかったです。先ほど申し上げていた、本作を観る前から自分が抱いていた「キャラデザがかわいいな」「爽やかな青春映画かな?」と思った時の印象をそのまま前半に置いた感じです。

そして、中間ではシオンをホシマエレクトロニクスという企業に襲わせる様を見せて、お話がどんどん変わっていく流れを目指しました。

――たったの40秒くらいでそれらが示されています。『アイの歌声を聴かせて』は、青春物語やミュージカルやアクションなど、とても要素が多い作品なのですが、それらを短い時間で入れ込んでいるのが素晴らしいです。そして、その後は「感動のつるべうちが待ってます!」と転換していっています。

横山:王道っぽいのに予想外、という本編の良さを出来るだけ凝縮できるよう意識しました。

絶妙なタイミングのコメントや歌詞

――著名人のコメント、例えばアニメ特撮研究家・大学教授の氷川竜介さんの「クレバーなユーモアに胸が踊る」や、漫画家の幸村誠さんの「泣かせるなぁ…泣いてしまった」などが、絶妙なタイミングで入っているのも素晴らしいと思いました。

横山:「Lead Your Partner」の楽曲を入れることしか決まっていない時に、いろいろな方からコメントをもらっているお話を聞いたので、細かい内容よりも、映画を大きく捉えるコメントを入れようと思いました。リストアップした中で、まずは声優の岡本信彦さんの「吉浦監督の最高傑作」というコメントは、吉浦監督のファンからすれば『イヴの時間』の声優さんのコメントだから「ささる」と思って、後半に入れました。

前半では、いただいたコメントと映像の構成を考えつつ、マッチする順番で入れていきました。脚本家の吉野弘幸さんの「極上の青春映画」というコメントを早めに入れて、まさに「青春ムービーだ!」ということを前半に示しつつ、後半では岡本信彦さんの言う最高傑作が、具体的にどう最高傑作なのかを、見せていった感じです。

また、ほぼ偶然なんですが、アニメ監督の入江泰浩さんの「幸せな気持ちになれる」を皮切りに、さらに感動のコメントを並べようとは思っていたんですが、テロップ表示の直後の「You've Got Friends」の歌い出しの「きっとあなたは幸せだよ」とも、タイミングが合ったなと。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


――本当ですね。音楽を入れるタイミングも「これしかない!」と思えるものでした。

横山:グッと来るところに、メインテーマとも言えるであろう「You've Got Friends」を持ってきて、ガッツリ音楽が聴けるMVのようなパートを設けました。セリフも終盤までは一切なしで、この曲にいろいろと託した形です。メロディや歌詞が持つパワーや中毒性が、PVを何度も繰り返し再生したり、SNSで拡散したくなるような動きに繋がってくれたら嬉しいな、という気持ちで試行錯誤を繰り返しました。

――細かくシーンをカットして、矢継ぎ早に入れているところもあります。

横山:打ち上げ花火で締める前に、様々な出来事を「点描」っぽく細かく入れてみました。

――最後に、シオンの記憶がバァッと一気に映るのですが、その過去の出来事を一挙に見せる様とリンクしているように思いました。

横山:そこはあまり考えてなかったです(笑)。シンプルに「最後にきっと笑顔になれる」という文言に呼応するシーンをたくさん入れたかったんです。シオンが「さぁ、手を繋ごう」と歌う瞬間には、サトミとトウマが手を繋ごうとしているカットを被せてみました。

――確かに、そこでまさに手をつなごうとしていますね!

本編が丁寧な「リップシンク」をされているからこそ……

――PVを作っていて、特にここは難しかったという部分はありますか。

横山:カットと音声をずらしても、違和感がないようにすることです。例えば、「You've Got Friends」の歌唱シーンでは、他のシーンも入れながらシオンが歌っています。PVで「きっとあなたは〜♪」と歌っている場面では、本編では彼女は違うことを歌っていて、以降も花火のシーンと他のシーンがどんどん入れ替わっていきます。

――なるほど、本編の歌唱シーンは、日本語の歌詞に合わせた口の動き、「リップシンク」も考えられているから、音と画面を少しでもズラすと、違和感が表出してしまうということですか。

横山:はい。別のシーンと別の音声を合わせるのは、短い尺の中で良いセリフと画を見せていく予告編制作では度々ある(もちろんNGなケースもあります)のですが、吉浦監督がミュージカルシーンでは細かくリップシンクに拘られてて、歌っている時の口の動作はとてつもなく丁寧に作られていました。だからこそ、失礼な言い方で大変申し訳ないですが、大変やりづらかったです(笑)。極力合うようにしようと、けっこう悩みながら制作していました。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


――そう言われて初めて気づきましたから、つまりは全く違和感がない、これ以上なく自然に見えるようになっている、ということだと思います。

横山:それは良かったです! あとは、「月明かりの綺麗な空の下で♪」と歌うシーンが大好きなんです。あそこで一旦、楽曲も盛り上がる前に静かになります。合わせて、ソーラーパネルに月が反射している2ショットを入れました。

すごく細かいことですが、終盤にかけて緩急をつけて最大限盛り上げるために、静かなシーンはもっと静かにしたらいいのではないかと、MA(Multi Audio、映像作品の音の最終調整作業)のミキサーさんと検証しました。ここではあえて一気に音量を下げて、その後「さぁ!」をキッカケに音量をガーッと一気に上げています。

――それも、全く気づいていませんでした。どれだけ自然に、感動を打ち出していたか、ということだと思います。そういえば、物語の流れは明確に描いているのですが、トウマが手を差し伸べているシーンでは音声を入れてなかったりして、核心部分だけはネタバレしていないのも見事だと思いました。

横山:松竹さんからは、PV解禁時にはすでに映画も公開されているから、ある程度のネタバレをしてもいいんじゃないかと提案がされましたので、感動的なシーンは遠慮なく示そうと思いました。それと同時に、この映画は核心部分のネタバレをせずとも感動を伝えることができる、とも思っていました。

吉浦監督と大河内一楼さんが共同で手がけられた脚本に込めた想いを最大限に汲みつつ、私も本編で最高の気分にさせてもらえた身として、映画館に来られた方にビックリしていただきたかったので(笑)。

サトミのあのカット、かわいいと思うんですよ。ドラマチックなとても良い表情をしていて、恋愛要素も匂わせたかったので。サトミは全編通して、色々な表情を見せてくれますよね。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


――横山さん、めちゃくちゃサトミが好きですね。

横山:好きですね(笑)。完全にサトミ推しなのでサトミのスピンオフとかあったら100%観ます(笑)。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

RANKING

SPONSORD

PICK UP!