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2022年07月29日

<ネタバレ解説>映画『ゆるキャン△』社会人に沁みる「5つ」の絶賛ポイント

<ネタバレ解説>映画『ゆるキャン△』社会人に沁みる「5つ」の絶賛ポイント


4:善い行動と人の縁の伝播

これまでの「ゆるキャン△」でも、「善い行動が伝播していき、善いことが起きる」「人と人の縁」が描かれてきた。例えば、「野クル」のメンバーそれぞれの出会いや、キャンプの活動そのものだ。それが「社会人」となったことでより鮮烈に、しかし優しく描かれていることが、今回の映画の最大の意義だろう。

そもそも、原作やテレビアニメ版やドラマ版の1話で、山梨へ引っ越して来たなでしこに、最初にキャンプの楽しさを教えたのはしまりんであり、2人はその時に共にカレーのカップ麺を食べていた。

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今回の映画ではなでしこの方がしまりんを冬の山の中での「秘湯」へと誘い、その道中で「あの頃」のようにカップ麺を食べる。しまりんは母から非常食として送られてきたカレーのカップ麺を、なでしこは「工夫して変えてみた」シーフードのカップ麺を……そのチョイス自体にも、彼女たちの「これまで」の足跡が表れたようだった。

なでしこがその行動を起こしたきっかけが、自分の働くお店にキャンプ道具を買いに来ていた女子高生3人組を見かけ、そして再びやってきた時に「そんなに道具を揃えなくても、初めはインスタント食品を食べてもいい」というアドバイスをしたからというのも、感慨深い。なでしこは、自分自身の「経験」があったからこそ、その「ゆるさ」も含めたキャンプの良さを示すことができたのだから。

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そして、みんなは縄文土器とキャンプ場を組み合わせた、「再生」という大元のコンセプトを変えないままで、新たな企画を提案する。記録映像を撮影していたこと、縄文人たちが土器を修繕して大事にしていたと聞いたこと、地元の人たちの手伝いもあったことも、確かな「意味」があったのだと、プレゼンの映像からは思い知らされた。

それを持って、本作は「歴史」「過去」「時間」そのものを肯定する。しまりんやなでしこがつないできた善い行動と人の縁の伝播は、それこそ縄文時代というはるか昔からあったこと。それは今に至るまで、人間が紡いできた尊い歴史そのものなのだ。

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そして、みんなは大きな鳥籠をプラネタリウムに見立てる、ロボットのペッパーくんも子どもを迎えるじゃんけんをするマスコット的な立ち位置にする、閉校となった小学校からタイヤも持ってくる、そして縄文土器そのものもアクティビティとして生かすという、まさに「再生」というコンセプトそのままのキャンプ場を作ることに成功する。

その善い行動や人の縁の伝播は、キャンプという趣味だけでなく、仕事そのものに必ずあるものだ。しまりんがなでしこと共に秘湯につかった時に言ったように、「社会人だからってなんでもできるわけじゃない」「ひとりでやっているわけじゃない」「みんなのお世話になっている」というのもその通り。でも、だからこそ社会はまわっているし、それこそが尊いのだと、改めて思い知らされたのだ。

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そして、ラストでは利用者が思い思いのキャンプをしている様を、5人みんなで見届けることができた。それをもって、キャンプそのものの良さを示すと共に、忙しい社会人のみんなのタイミングが合ったという奇跡、転じて仕事そのものの喜びを示す結末の、なんと優しいことだろうか。このラストシーンが、冒頭の「5人みんなで富士山と花火を一緒に見る」ことと「対」になっているのも素晴らしい。

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ところで、善い行動と人の縁の伝播という要素は、現在Blu-ray&DVDが発売中、レンタル配信とデジタルセルも実施中の『アイの歌声を聴かせて』にも完全に通じている。全人類が観るべきアニメ映画史上最高の大傑作であり、当然のその中には映画『ゆるキャン△』が好きな人も含まれているので、観てください。お願いします。

【関連記事】『アイの歌声を聴かせて』の予告編ディレクター・横山裕一朗ロングインタビュー

5:実質『トップガン マーヴェリック』だった

※以下の文は『トップガン マーヴェリック』のネタバレに触れています。未見の方はご注意ください。

現在も大ヒット記録を更新し続けている『トップガン マーヴェリック』、この映画と本作を連想する人も多いだろう。



『トップガン マーヴェリック』と映画『ゆるキャン△』との共通点は、前作(テレビアニメ版)から時間の隔たりがあり、種々のシーンから「変化」または「変わらない」ことが示されていることだろう。前者では若きパイロットたちの活躍や旧友が病に伏していたりする様が、後者では性格はそのままでも社会人になったみんなのたくましさがたっぷりと示されていた。

また、どちらも「空白の期間」があるが故に、その間に何があったのか、観客それぞれが想像できる楽しみもある。同世代の仲間たちだけでなく、年齢も性別も異なる人々も参加した上でのチームワークも描かれていることも共通項だ。

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映画『ゆるキャン△』のクライマックスで見事なテント設営の手際を見せたなでしこが「さすがプロだねぇ」と称賛されることも、『トップガン マーヴェリック』の主人公が年をとっても変わらぬパイロットの技術を持っていることを思い出させた。

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そして、『トップガン マーヴェリック』では窮地に陥った時に「旧機体」に乗り込んだことと同様に、この映画『ゆるキャン△』でしまりんは高校生の頃に乗っていた「ヤマハビーノ」に乗り込むのである(しかも「マカセロ」と言ってくれる)!

なんてアツい展開なんだ!

それもまた、「歴史」「過去」「時間」の肯定と言っていいだろう!

(文:ヒナタカ)

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