加山雄三のすすめ~若大将は終わらない~
近年は歌手活動がメインとなった彼だが、1960年代の“俳優・加山雄三”のカッコ良さは、今観ても色褪せることはない。
代名詞とも言える「若大将シリーズ」はもちろん、黒澤明の『椿三十郎』と『赤ひげ』が傑作となったのは、加山雄三の名演によるものが大きい。加山雄三の凄さは、「若大将シリーズ」といういわゆる“アイドル映画”としての演技と、黒澤明という日本を代表する名監督の作品における“硬派”な役柄を、まったくの同時期にこなしているという点である。
まずは観てほしい。
「若大将シリーズ」('61~'71)
現在、一部作品で復活上映が行われている、言わずと知れた人気シリーズ。「シリーズ1作目から観たい」
「観る順番を教えてほしい」
「シリーズ最高傑作はどれか?」
男なら(女でも)細かいことは気にすんな。正解は、「どれから観てもいいし、どれを観てもいい」。
’61年から’71年の10年間に渡って全17作が作られた人気シリーズだが、物語のフォーマットは基本的にほぼ同じだ。
“通称「若大将」の田沼雄一(加山)は、大学運動部(作品によって種目は変わる)のキャプテン。ひょんなことからヒロイン(星由里子or酒井和歌子)と出会い意識し合うが、ライバル「青大将」(田中邦衛)の妨害や、モテモテの若大将を見てヒロインが嫉妬することにより、気まずくなる。その後紆余曲折あり、青大将がぎゃふんと言わされ、試合にも若大将の活躍で快勝し、ヒロインとも仲直りして大団円”
10年に渡って同じパターンを貫き、しっかりヒットさせる。これは加山雄三だからできる力業だ。
“若大将”こと田沼雄一は、スポーツ万能でギターはプロ並み、ケンカも強く二枚目でもちろん人気者。いわば「出木杉くんの成長後」のような男である。はっきり言って、いけ好かないキャラだ。なんぼ主役でも完璧過ぎないか?
と思ったら、実はこの若大将にもひとつだけ欠点がある。「女心がわからない朴念仁」であるということだ。だから毎度毎度ヒロインと気まずくなるのだが、その唯一の欠点が、主人公としての”かわいげ”を生んでいる。
もしこれが女性の扱いにも長けたキザなキャラだったら、反感を買ってシリーズは続いていなかっただろう。また「二枚目だけど不器用」というキャラが似合う。ずるい。
※ちなみに、筆者的には『エレキの若大将』を推す。後のイメージとは真逆の、やたら軽妙な内田裕也は必見。
『椿三十郎』('62)
入門編として「若大将シリーズ」を観たなら、次はいよいよ黒澤映画における加山雄三だ。“家老たちの汚職を告発しようと目論む9人の若侍たち。ただ、お坊ちゃん育ちで世間知らずの青臭い正義感だけで行動する彼らは、その見通しの甘さから窮地に陥る。行き掛かり上助けた浪人・椿三十郎(三船敏郎)は、その後彼らと行動を共にし、知恵も貸すようになる”
この9人の若侍のリーダーが、加山雄三演じる井坂伊織だ。“正義感は強いがクソ真面目で融通の利かないお坊ちゃん”という役柄に、この時期の加山雄三以上にハマる役者はいない。そして後述の『赤ひげ』同様、三船敏郎演じる“大人”の主人公に、当初は反発しながらもだんだん惹かれて行く。
この黒澤明✕三船敏郎✕加山雄三のトリプル・コンボは最強だ。
だが、この伊織、カタブツに見せながらも家老の娘と逢引きしていたりする。これは現代に置き換えると、会社の重役の娘と平社員が付き合っているようなものだ。不器用で融通が利かないキャラでありながら、そっち方面だけ器用だ。やはり二枚目はなにかと得である。
『赤ひげ』('65)
“長崎でオランダ医学を学んだ保本登(加山雄三)は、小石川養生所に医師見習いとして住み込むこととなる。コワモテの所長・赤ひげ(三船敏郎)に、当初は反発していた保本だが……”
はっきり言って、加山雄三の最高傑作である。加山雄三が嫌いな方も、この映画だけは観てほしい。あなたの中の「加山雄三観」が、180度変わるから。
タイトルこそ『赤ひげ』だが、この物語は保本登、つまり加山雄三の成長譚である。
長崎帰りを鼻にかけ、所長の赤ひげに反発し、診療をサボって酒を飲んだりしてクビになることを望んだ保本。だが、赤ひげの真摯な医療への気持ちや貧しい人々への思いを感じ取った彼は、次第に赤ひげに心酔していく。
この作品における加山雄三の最大の見せ場は、おとよという少女(二木てるみ)とのエピソードである。
売春宿で育てられ、12歳で客を取らされそうになっていたおとよを、赤ひげと保本は助ける。
「お前の最初の患者だ」
赤ひげはそう言うと、身も心も病んでいるおとよを、保本に託す。
保本は自室におとよを寝かせ、24時間体制でおとよのケアに当たる。人間を信じることの出来ないおとよを、保本はひたすら献身的に支える。薬を与えても食事を与えてもはねつけられ、時には保本自身が絶望に涙を流しながらも、彼は諦めない。やがて、おとよは少しずつ心を開くようになる。
おとよが初めて喋った時。おとよが初めて笑顔を見せた時。すっかり保本登=加山雄三に感情移入していた筆者は、思わずこみ上げるものがあった。無理をし過ぎた保本が高熱で倒れた時には、逆におとよが看病するようになる。ここに至っては名場面過ぎて、ボロ泣き必至である。
最初は、人間になつかない“狼少女”のようだったおとよが、この段階ではすっかり美少女になっている。精神的な健康が、人間の外見まで変えてしまうのだ。
当然のように、おとよは保本に淡い恋心を抱くようになる。やっぱりモテるのだ。うらやましい。
改めて、黒澤明✕三船敏郎✕加山雄三のトリプル・コンボは最強だ。
そして2022年
85歳になった加山雄三は、年内でのコンサート活動引退を発表、9月9日(金)には「ラストショー」と題したライブを敢行する。チケットはすでに完売しているが、映画館でのライブ・ビューイングも開催するという。
「まだ歌えるうちにスパッと辞めたい」
“若大将”として人前に立てなくなる前に辞めるという姿勢には、二枚目俳優としての矜持が感じられ、嬉しく思う。だが、寂しさも否めない。
メディアで加山雄三を観る機会が減少するのなら、せめて筆者は啓蒙していきたい。
“俳優・加山雄三”が、いかにカッコ良かったかを。
(文:ハシマトシヒロ)
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