(C)2022 八目迷・小学館/映画「夏へのトンネル、さよならの出口」製作委員会
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映画コラム

REGULAR

2022年09月09日

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』が青春版『インターステラー』と言える傑作の理由

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』が青春版『インターステラー』と言える傑作の理由


「特別」をめぐる物語

主人公の1人である花城あんずは、ある理由から「特別な存在になりたい」という切実で、普遍的な願望を持っている。それは(作中ではガラケーが主流の時代背景だが)SNSで人気や注目度がより可視化される現代では、より共感を得やすい価値観なのではないか。

もちろん、誰もが特別な存在になれるわけではないことは、作中ではシビアなまでに提示されている。だが、同時に特別を求めている人に対し、福音となる、とある形で特別にまつわる尊いメッセージを提示してくれてもいるのだ。

そして、八目迷は、この物語は「前進」をテーマにしており、「焦燥や不安を抱えながら、どれだけ希望を持って人は前に進めるか」を描いているとも語っている。

塔野カオルも花城あんずも、それぞれ事情は異なるが、現状と未来は共に焦燥や不安でいっぱいだ。さらに2人は、本来は誰にでも平等なはずの時間を失うという、恐ろしいウラシマトンネルを進むことに挑んでしまう。価値観が1つの方向に定まりすぎている、共依存的で、危険な関係性でもあるのだ。

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では、そんな風に現状と未来は共に焦燥や不安でいっぱいで、1つの方向の価値観に捉われすぎている2人が、どのように、本当の意味で「前身」できるのか……は、ぜひ映画本編を観て確認してほしい。それもまた、「時間をかけてこそ手に入れられるものがある」という、やはり現実に通ずる尊いテーマにつながっていたのだから。

また、原作小説にあった個人的に好きな一節に、「二兎を追う者は一兎も得ずなんてことわざもある。でも、二兎を得るには、二兎を追うしかないのだ」というものがある。その貪欲な願望の危険性を描きつつも、やはり人間の根源的な行動原理として肯定することにも、この物語の感動がある。

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原作からさらに「2人だけの物語」に

この映画『夏へのトンネル、さよならの出口』は、原作小説から換骨奪胎も行われている。特に高飛車なクラスメイトの少女・川崎小春のエピソードは大幅にカットされており、そこには原作ファンからの賛否両論もあるかもしれない。

だが、この物語が「2人だけ(しかわからない価値観)の物語」になることを踏まえれば、この映画での極めてタイトな物語のまとめ方も、とても良かったと思うのだ。

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何しろ、ウラシマトンネルで時間という代償を払おうと覚悟を決める2人の関係は側からみればとても危ういものだ。だが、代償を払っても得たいものがあるという強い想い、その価値観を共有したからこそ彼らは惹かれあっていく。

それは他者が介入しようもない関係とも言えるので、クラスメイトの関係性が「ほんの少し」であることは、むしろ彼ら「だけ」の物語であることを、良い意味で強調していたのではないか。

また、原作者の八目迷は、「90分や120分の長さに全力を注ぐような映像化に、憧れを感じます。いつか映画館の大スクリーンで、自作小説が原作の映画を観てみたい」という夢をインタビューで語っており、その夢は今回の映画で果たされた。

そして、本作はまさに90分(にも満たないが)の長さに全力を注いだ映画にもなっていた。青春を駆け抜けるかのような物語を一気に映像として味わえる、短い時間で充実した気持ちになれる。時間を重要視した物語とリンクするように、そのことを実感できることも今回の映画化の意義だろう。

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そして、映画を観た方は、ぜひ原作も読んでみることをおすすめする。もちろん大筋の物語は変わらないし、その感動は映画でも存分に示されてるが、愛おしいキャラクターの魅力がさらにわかるだろうし、作品にこめた想いやメッセージはより文章で具体的に理解できるだろうから。

(文:ヒナタカ)

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