『すずめの戸締まり』が新海誠監督の「到達点」である「3つ」の理由
2:「同じところをぐるぐる回る」新海誠監督の「リベンジ」
そんなわけで『すずめの戸締まり』は万人が楽しめるエンターテイメントとなり、かつ『君の名は。』や『天気の子』とは異なるロードムービーとしての魅力も打ち出しているわけだが……一方で、筆者は「今までとやっていることは同じだな」という印象も持った(それこそが鑑賞直後の感想が「平熱」だった理由のひとつで、他にも細かい不満点はある)。
実は、新海誠監督自身、雑誌「ダ・ヴィンチ」2022年12月号のインタビューで、「そもそも僕は幅の広い作家ではないですし、同じところをぐるぐる周りながらものを作っているような気はする」と語っている。そして、「直接的に意識していなかったにせよ、2011年の『星を追う子ども』のテーマを何かしら語り直している部分はあるのかなという気がする」とも語っているのだ。
実際に『星を追う子ども』と『すずめの戸締まり』は共通点が多い。母子家庭(後者は叔母と姪)で育った少女が突如として男性と冒険に旅立つという物語の発端の他、それ以外にも(両者のネタバレになるのでここでは控えるが)付合する要素がある。
ただ、『星を追う子ども』は興行的にも批評的にも、明らかな失敗作でもあった。構図からシチュエーションに至るまで『天空の城ラピュタ』(1986)や『もののけ姫』(1997)などのジブリ作品をあまりに連想させる所が多く、しかも世界観や設定の説明が多い上にいろいろと唐突で展開そのものが飲み込みづらくもあった。
そして、新海誠監督は「ダ・ヴィンチ」の同インタビューにて「今だったらもう少しマシに語れる、もっと観客に届けられる」という「リベンジ感覚」についても語っている。明らかに、新海誠監督は『星を追う子ども』に(あるいは他作品にも)作家としての悔いが残っていたからこそ、もう一度語ってみようという気概があるのだ。
ここは『すずめの戸締まり』が賛否両論を呼ぶポイントでもあるだろう。「まったく新しい新海誠」を求めていた方にとっては期待はずれになるかもしれないし、「これまでの新海誠作品をブラッシュアップまたはアップデートしてもう一度届けてくれた」とポジティブに捉えられる方もまたいるはずだ。
余談だが、『すずめの戸締まり』にも、ジブリ作品を強く連想させるシーンがある。『星を追う子ども』の時には悪い意味での既視感ばかりを覚えてしまったが、今回は違和感はなく、必然性のあるものに仕上がっていた。そのジブリ作品へのリスペクトのバランス感覚もまた、リベンジと言えるのではないか。
さらに余談だが、『星を追う子ども』を観たことがある方は、ラストのセリフを思い出して、または再鑑賞して確かめてほしい。それを聞けば、『星を追う子ども』と『すずめの戸締まり』が「つながっている作品」だとわかるはずだ。
※これより『君の名は。』と『天気の子』のネタバレに触れています
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