「虎に翼」苦い結末。寅子、女のしたたかさに敗北する<第36回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第36回を紐解いていく。
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ラストにどっきり
1942年。戦争はますます激化。猪爪家の食事情もさみしいものになってきています。第8週「女冥利に尽きる?」(演出:橋本万葉)では、花江(森田望智)は国防婦人会のたすきをかけていました。戦時中が舞台の朝ドラ名物・国防婦人会。前作「ブギウギ」では国防婦人会のご婦人方が、茨田りつ子(菊地凛子)の派手な服装を咎めていました。花江もそんなことに加担しているのか気がかりです。
寅子(伊藤沙莉)は優三(仲野太賀)との結婚を穂高(小林薫)に報告。穂高は、優三の名前を覚えていませんでした。優三はじつにできた存在で、からかいの役割であることに耐え続けています。彼は家庭にも恵まれず、司法試験にも受からず、寅子の恋愛対象にもならないながら、いつもにこにこ穏やかです。
ドラマのなかでは女性はいつもつらいとされていますが、男女差ではなくて、選ばれる存在と選ばれない存在という差なのではないかとも思うのです。あるいは、選ばれやすい存在と選ばれにくい存在でしょうか。選ばれやすい存在は、寅子のように家が安定していて、勉強ができて、前向きで自尊心の高い人。そこに見目麗しい人も入ります。選ばれにくい存在は、優三のような人です。
現に寅子は望んだものをすべて手に入れ、順風満帆です。
でも、世間的には新婚の寅子と優三、同じ部屋で暮らしていても、いわゆる夫婦生活はありません。
いつもすぐ寝てしまう優三に、寅子は少し浮かない顔をしています。ほんとは、結婚生活に興味もあるのかも? 伊藤沙莉さんには「ひよっこ」の米子役から、恋に貪欲なキャラをかわいく演じられるというイメージもあるものですから。
一方で、寅子と優三が恋愛とか性的なことに興味のないタイプ(アロマンティック、アセクシャル)ではという読みもあります。脚本家の吉田恵里香さんがそれをテーマにした「恋せぬふたり」の作者であるからそう感じる視聴者もいるのです。昭和の時代にこの概念はなかったですが、そういう人もきっといたでしょう。
ただ、ここでアロマンティック、アセクシャル的なことを持ち込むと、話が複雑になりすぎるので、いったん置いておきたいところです。
そんなとき、寅子は両国満智(岡本玲)の親権裁判を担当することになりました。
夫亡きあと、別の男性に経済的援助をもらう形になったことで、夫の両親から訴えられているのです。義父母からの援助がなかったため、子供を養育するため仕方なくという点を寅子は主張し、見事に親権を守りました。
ところが、よくよく調書を見た寅子は、満智のお腹の子供が亡き夫の子供である可能性が限りなくないことに気づきます。
指摘された満智は「やっぱり女の弁護士先生って手ぬるいのね」と高笑い、「女が生きていくためには悪知恵が必要だと」と開き直って去っていきます。
「君の失態が誰かの人生を狂わせたことを忘れてはいかん」と雲野(塚地武雅)に言われます。
なんとももやもやした結末のままつづく――となりました。
子供が誰の子であるか、妊娠期間から誰ひとり疑問に思わない状況には、法曹界が信用できなくなります。学生のときの共亜事件では母の日記を読み込み、司法修習生のとき、言論統制事件では著作を片っ端から読んだ寅子でしたが、ひとり立ちした今、調書の読みが足りなかった。これからもっとがんばって。
真実はほかにあったという展開は、リーガルものや刑事ものに時々あります。後味の悪さが逆に鮮烈に印象に残り忘れられなくなると同時に、視聴者に考えを促すものとなり、好まれます。
このエピソードで作り手が何を優先しているか考えてみましょう。
A:エンタメ性 B:リアリティ C:テーマ性
(文:木俣冬)
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(C)NHK