「虎に翼」優未はなぜのどかを蹴ったことを謝罪しないのか<第114回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第114回を紐解いていく。
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原告側の証人・吉田ミキ(入山法子)の切実な手紙
家族の問題と原爆裁判を平行して描きます。痴呆の症状が進行している百合(余貴美子)の世話をしないのどか(尾碕真花)に業を煮やした優未(毎田暖乃)はのどかを蹴っ飛ばして家を出ていってしまいます。
職場に山本(山野海)から報告の電話がかかってきて頭を悩ます寅子(伊藤沙莉)。
湧いてくるイマジナリー猪爪家の人々を追い払っていると、汐見(平埜生成)が怪訝そうな目で見ます。
優未はよね(土居志央梨)たちの事務所に来ていました。
優未の言い分を聞いて、遠藤(和田正人)が、怒る気持ちはわかるが手や口を出したら、その責任をとらないといけないと諭します。
迎えに来た寅子は事務所の外でそれを聞いて感無量、拍手しながら入ってきて、優未を抱きしめます。
「いきなり湧いて出てきてうるさい」というよねのツッコミがナイス。
家に戻るとのどかと航一(岡田将生)が夕飯(カレー)を作って迎えます。
のどかも仕事でくさくさしていて、百合に気遣う余裕がなかった。こういうことってどこの家にもあるでしょう。
いろいろあるけれど、同居を選んだのだからみんなで協力して百合の面倒を見る。星家の問題はいったん解決です。
口や手を出してなんの責任も負わない人にはならないでほしいと言われたにもかかわらず、優未がのどかを蹴ったことを謝らなかったのは、何かの暗喩なのでしょうか。
そして原爆裁判です。1962年(昭和37年)1月、証人として被爆者・吉田ミキ(入山法子)が広島からやってきましたが、法廷に立つことに躊躇があるようです。彼女は原爆によって顔にやけどを負っていて、好奇や同情の目にさらされることに躊躇があるのです。
よねの凜とした美しさを褒める吉田。彼女は昔、美人コンテストに優勝したこともあったという。つるっときれいな白い肌といまの自分をついつい比べてしまうのでしょう。
入山さんはこれまで朝ドラでは、「エール」でカフェの女給、「らんまん」で芸者と、女性の仕事が限られていた時代に自分なりに働いてきた人物を演じています。「ゲゲゲの女房」では劇団の女優兼座付き作家で、すこし先進的な役でした。
今回の吉田は戦争の犠牲者の代表です。
裁判に立って世間の同情を買うことが目的であることはわかっているものの、同情されるのもつらいことです。
「声をあげた女にこの世界は容赦なく石を投げてくる」「だからこそ心から納得して自分で選択したことでなければ」と言うよね。
でも、苦しさと辛さを伝えたいのも吉田の本音。
結局、吉田は裁判に欠席し、手紙を轟が代読します。吉田は美しさ以外にも身体に様々なダメージを受けていました。
ここで「虎に翼」の名劇伴「You are so amazing」が包み込むようにかかります。
「ただひとなみに扱われて穏やかに暮らしたい」(吉田)
被害を被っている者が世間に訴えると、なぜ逆にますます損害を被ることになるのか。世の中ってほんとうにヘンです。
轟が吉田が法廷に立つことを心配したのは、彼が同性愛者であり、何かと他者の好奇の目を避けて生きているからでしょうか。
原爆裁判に関わっている人が、轟をはじめ、よね、汐見とみんな、社会からこぼれ落ちて苦しんでいる者たちです。よねは男性の力に屈服させられたことがあり、汐見の妻は朝鮮人であることを伏せて暮らしています。法律で「平等」を謳っているにもかかわらず、平等ではないことを身に染みて知っている人達です。
よねの「声をあげた女にこの世界は容赦なく石を投げてくる」というセリフが、原爆裁判においては、男女関係ないと思うので、女性問題にまとめてしまうと、視聴者が「はて?」にならないだろうかと気にかかりました。原爆の問題に、フェミニズムやルッキズムも混ざっているような。吉田とよねの場面に#MeToo運動も想起してしまう。もちろん、 すべてが社会の不平等からはじまっていて、その究極が戦争という考えは理解できます。
誰でもなんとかできてしまう困ったとき頼れる料理・カレーとは違って、具材をどんどん放り込んで魔法のカレールー入れて煮込んでもみんなが食べられる社会派エンタメにはならないのです。たとえどんなにすばらしい考えでも、一個、一個、分けて論じていかないと伝わりにくくなって(わかる人にしかわからない)もったいない気がします。つまり、冴えたやり方を考えだすことが大事なのではないかと思うのです。それが一番むずかしいから、まずは声をあげる、なのでしょうけれど。
(文:木俣冬)
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