【完全版】アカデミー賞で起きたこと、徹底分析!
そして、歴史が動いた!!
最初の発表はオスカー俳優4人に囲まれたブラッド・ピットがついに受賞。50歳の彼ですが、今回はノミネートされた中では最年少でした。
役柄に添ったこともありますが日の当たらないスタッフにも平等にスポットライトを当てるというアカデミー賞の本来のあり方にならって、監督や共演者に加えて無名のスタントマンたちにも感謝の言葉を伝えました。
映画プロデューサーとしても実績を積み、若手からベテランまで人望のあるブラッド・ピットのこの“華のある受賞”で一気に授賞式にエンジンがかかりました。
今年からのアカデミー賞の変更点として、 “外国語映画賞”という名称が“国際長編映画賞”に名称が変わりました。昨年の『ROMA/ローマ』のような立ち位置の作品が登場したこともあるからでしょう。
この新名称第一作目に呼ばれたのがポン・ジュノ監督の『パラサイト半地下の家族』。
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この前にオリジナル脚本賞を受賞した後の、読み上げだったこともあって、大半の予想としてはこれで『パラサイト半地下の家族』の受賞は落ち着くのかなという感じだったのは事実です。
何せ、ポン・ジュノ監督自身が、もう声がかからないと思っていたと話してしまったほどですから。
ところが、ところが、監督賞にポン・ジュノ監督の名前が挙がると空気は一変します。
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対照的に本命と言われた『1917』や『ジョーカー』が票を伸ばさない中で、これはもう『パラサイト半地下の家族』が行くところまで行き着くのではないか?というムードになっていきました。
そして最後に社会的・政治的活動家としての顔をも持つジェーン・フォンダが万雷の拍手で登場(ハリウッドリベラルの象徴のような彼女に読み上げられるというのも運命かもしれません)。
作品賞の受賞作として『パラサイト半地下の家族』のタイトルが読み上げられると、会場は総立ちになって大騒ぎ、演技部門ではノミネートがなかったソン・ガンホを筆頭にした出演者たちも壇上に上がり喜びと驚きで表情を爆発させてました。見ているこちらも鳥肌モノの歴史的な瞬間となりました。
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第92回アカデミー賞を巡る闘いは貧富の格差という普遍的なテーマをサスペンスから、ミステリー、コメディまで複数のジャンルを濃密に煮詰めた快作で怪作の韓国映画『パラサイト半地下の家族』に凱歌が上がりました。
テーマが普遍的であるとは言え、あくまでも韓国社会を描いた韓国人に向けた映画が、作られ方や国籍、言語といったものを乗り越えて一つの頂点にたどり着きました。
このことはとてつもない前例となることでしょう。これからはどの土俵で映画を撮ってもアカデミー賞の対象になりうるという確かな実績を築きました。
これは多くの映画監督に大きな可能性と強大な課題を突き付けたことになりました。
と同時に、いざとなればアカデミー賞を争う覚悟を持つ必要性を世界中の映画監督たちに与え、それを意識することを避けて通れなくしました。
『パラサイト半地下の家族』日本では韓国映画としては久しぶりに興行収入15億円を超え、動員も100万人を突破するヒット作となっています。今回の受賞で公開規模もまた拡がるかもしれませんので、未見の方は必見です。
メッセージは発信!でも忖度はなし!
この“パラサイト大旋風”ですっかりかすんでしまった感のある前夜までの2大トピック。
Netflix組はいわゆる主要部門では『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンの助演女優賞受賞にとどまりましたが、製作した“米中の融和”を描いた長編ドキュメンタリーの『アメリカン・ファクトリー』(オバマ前大統領夫妻が関わっています)が最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞。ますますNetflixの地盤固めが進んでいるなと感じさせられました。
一方で、女性に関する問題は、オープニングのクリス・ロックの強烈なワード(生放送ならではの強烈な飛び道具)から始まり、プレゼンターの作品紹介や受賞スピーチなどで女性クリエイターが深く関わっていることに言及する場面も多くありました。
作品賞のプレゼンターにジェーン・フォンダを呼んだのも意識したキャスティングでしょう。
未見ですが短編ドキュメンタリー部門を受賞した『Learning to Skateboard in a Warzone (If You’re a Girl)』はタリバン政権下で抑圧されたアフガニスタンの少女たちがスケボーを学ぶというテーマの作品ということで、これも興味深い作品です。
衣装デザイン賞を受賞した『ストーリー・オブ・マイライフわたしの若草物語』のチームはしっかりと監督賞から漏れたグレタ・ガーウィングを名指しして感謝の言葉を贈りまし、他にも女性受賞者から女性映画人へのエールの言葉も多く見ることができました。
余談ですが、作品賞にはノミネートされたものの監督賞から漏れた作品のスタッフが技術系の部門で受賞すると必ず監督にメッセージを贈る姿はとても健全な姿に見えました。
個人的にとても素敵なシーンになったと感じたのが『エイリアン』シリーズのリプリーで戦うヒロインのパイオニアとなったシガニー・ウィバーが登場したところです。
彼女を挟む形でガル・ガドットとブリー・ラーソンも登場。
ガル・ガドットと言えばDCコミック原作の大ヒット作品『ワンダーウーマン』の主役。
そして、ブリー・ラーソンと言えば『ルーム』で主演女優賞を受賞し、マーベルコミック原作の『キャプテン・マーベル』でタイトルロールを演じています。
二つの大ヒットアメコミ作品でパワフルな21世紀型のヒロインを演じた二人の女優が強いヒロインの道を切り拓いたシガニー・ウィバーの功績を讃える姿はとても印象的なものとなりました。
この3人がそろって全ての女性はスーパーヒーローですと言うと圧倒的な説得力がありますね。
全体として突き付けられた問題に対して、アカデミー賞と登壇者はリベラルな立ち位置を明確にしたと思います。
その一方で、脚色賞に『ストーリー・オブ・マイラフ/若草物語』を選んだり、主題歌賞を『ハリエット』に送ったりするような、前哨戦の流れを完全に無視した“政治的な忖度”が感じられる受賞がなかったのも、これはこれで良かったと思います。
これで変な忖度エンジンを発動させると日和った感覚を残してしまうのですが、そういったことはなく、今後の課題は今後の課題としたままで中途半端に手を付けることはしかなかったのもある意味、潔かったと思います。
限られたノミネートの枠で現代社会を全て抱え込むこと自体かなりの難題でもあることなので、何かしらの問題は孕んでしまうでしょう。
しかし、アカデミー賞が受賞者の言葉を借りれば“変革の時”にあるということがちゃんと伝わる授賞式でした。
もちろん、多くの課題や問題は残っていますが、『パラサイト半地下の家族』が新たな映画の歴史を切り拓いたことも含めて、最後までとても楽しく、なおかつ嬉しく見ることができるアカデミー賞であったと思います。
最後に、実は二年連続で司会がいないオスカーとなりましたが、元司会経験者を含む豪華なメンバーによるリレーはかえって華やかな感じを生み出しました。
多くのスターを見ることができますし、このスタイルでいくのもいいかもしれません。
私は、24部門の内、長編ドキュメンタリーと短編ドキュメンタリー、短編実写と短編アニメーションが作品を見れていなかったの、残りの20部門を予想した結果、的中11、外れ9という惨敗でした。
とは言えその中に『パラサイト半地下の家族』の作品賞と監督賞があったので、悔しさは全くありません。
(文:村松健太郎)
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