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『花束みたいな恋をした』は、元恋人との精神的対話|東紗友美の"映画の読みかた"
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『東京ラブストーリー』(91年)、『Mother』(10年)、『最高の離婚』(13年)など多くの連続ドラマを手掛けている脚本家・坂元裕二氏が“2020年の東京”を舞台に書き下ろしたオリジナルラブストーリー。
今回は、映画を観て、その余韻に浸かりながら、頭に浮かんだことばと、心に浮かんだ景色を、綴ります。
映画から生まれる言葉の世界へ。
『花束みたいな恋をした』STORY
東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った麦と絹。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。
近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマ
スマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが・・・。
5年間に渡る男女の関係を描いた誰しもが共鳴する普遍的な愛のものがたり
2021年1月29日公開
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終電を逃したふたり。
夜は、どんどん朝に追いかけられるけれど。
闇と光のグラデーションは、2人のどこまでも曖昧になっていく。
流れ着いたのは、夜明け。
きのこ帝国をゆらゆらと謳う、ふたり。
おたがいの存在と、未来を探るような歌声で。
「クロノスタシスって、知ってる?」
「知らなあい」
と君がいう。
ふとした瞬間に時計を眺めたとき、
時計の秒針が止まっているように見える。
クロノスタシスは、その現象。
勿論時計は止まってなんかいなくて。
単純に、脳と、知覚と、そのピントを合わすまでのブレのことをいうらしい。
そんな歌を、透かし絵に。静かにはじまる恋愛は、恋する僕らを包み込む。
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恋に堕ちているときは、
誰しもその時間が止まっているようにみえて。
一生こんな気持ちが続くんじゃないかと、
甘美な永遠を錯覚する。
でも、実は、そうじゃない。
たしかに時計の針は、動いていて。
時間が過ぎればすぎるほど
恋愛生存率というのは反比例に減少する。
昔あった気持ちもいつか、
弾けて消えた炭酸の泡のようにどこにも見えなくなってしまう。
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でも、出会いは、平行線。
出会いはいつだって、さよならを内包している。
いろんなことがクリアになっていく視界の中で、靄がかかったように君だけが。
一番近くにいるのに、どんどん見えなくなっていく。
しっかり結んで二人三脚したくても、恋人たちは同じ歩幅で歩けない。
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花が美しいままいられるときはそう長くはないけれど、咲き乱れるその姿を焼き付けて。
過ぎ去りし日々を抱きしめる。
美しかったその鮮やかな色味だけを何度も何度も思い出す。
その時、ぼくらはきっと、笑顔だろう。
或る人にとっては、
過去の恋路へのタイムマシン。
或る人にとっては、
訪れる恋の先行体験。
2人は、
過去ですか?未来ですか?
この映画の中には、ぼくらがいる。
自分の分身だからこそ、愛しくて、懐かしくて、恥ずかしくて、情けなくて、その全てが狂おしい。
わたしときみのものがたり。
その場凌ぎで貼った絆創膏みたいな恋愛とは対極のところに位置する、ちいさく残るその傷跡さえもが、まだいまも愛おしい恋愛を垣間見た。
text by Sayumi HIgashi
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映画ソムリエ東紗友美
元広告代理店勤務。テレビやラジオでの映画紹介、各種媒体での映画コラム執筆、映画イベントMCなどが主な活動領域。映画ソムリエと名乗り、映画をコンセプトとしたカフェのプロデュースや映画祭審査員などにも携わりながら、映画業界を盛り上げる存在になるべく日々奔走中。Instagramでは毎日、映画情報を配信している。
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