『ラーヤと龍の王国』新たなディズニーの傑作となった「5つ」の理由
4:シスターフッドの関係性
最近では、女性のエンパワーメントに溢れる、または女性の辛い心境に寄り添った、「シスターフッド映画」が数多く世に送り出されました。シスターフッドとは女性同士の連帯や絆を示す言葉で、1960年代から1970年代のウーマンリブ運動の中でも使われており、近年の映画作品においては厚い信頼や友情に基づく、姉妹または姉妹に近い関係性を指すことも多いのです。例を挙げるのであれば、『ハスラーズ』、『スキャンダル』、『チャーリーズ・エンジェル』(2019)
、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』、『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』、『ウルフウォーカー』、『燃ゆる女の肖像』、『あのこは貴族』などなど……この『ラーヤと龍の王国』も、そのシスターフッド作品の1つに数えて良いでしょう。
主人公のラーヤと龍のシスーが女性であり、彼女たちが親友を超えて家族のような絆を深めていくというのももちろん、敵として立ちはだかるナマーリという女性とも、ラーヤは愛憎入り混じる関係にあるのです。対立する彼女たちが共に格闘技を駆使して戦う強い女性であることも、新たなディズニーのヒーローおよびライバル像を提示してくれていたようで、なんとも嬉しくなるのです。
そのように強い女性を描く一方で、ラーヤの父親や、なんでも1人でこなす少年のブーンという男性が「料理をする」立場であったというのも、ジェンダーロールに囚われない人々の姿を描くという気概なのでしょう。加えて、前述した個性豊かなキャラクターそのものが、世の中の「みんな違ってみんないい」という多様性の素晴らしさそのものも訴えられているようでもあるのです。
余談ですが、吹き替えおよび字幕での、幼い頃のラーヤとナマーリが言い合っていた「龍のファン」とされていたセリフは、原語をよく聞くと「Doragon Nerd(龍のオタク)」でした。つまりあの2人は「私たちオタク同士だから」と自虐的な物言いをしながら、心では通じ合っていたということですよね……尊い!あとラーヤがナマーリのことを「ショートカットの姫」と皮肉まじりだけど愛情もありそうな絶妙な呼び方をしているのも尊い!
5:『ザ・レイド』も参考にした格闘アクション
本作で多くの方が度肝を抜かれることは、ハイスピードで繰り出される格闘アクションなのではないでしょうか。ベトナム系アメリカ人脚本家であり、マーシャルアーツのコンサルタントも務めたクイ・ヌエンは「これは、今までに誰も見たことがないような、ものすごく勇敢なキャラクターを世界に紹介できるまたとない機会だった」と考えたのだとか。彼が参考用資料としてアニメーターたちに観るように勧めたのは、なんと『マッハ!!!!!!!!』をはじめとした「大量のトニー・ジャー映画」の他、『チョコレート・ファイター』や『ザ・レイド』などの東南アジアのマーシャルアーツ映画だったそうです。
その結果、ラーヤは素手ではシラット(東南アジアの伝統武術)、武器を手にした時はアーニス(フィリピン武術)を使い、ライバルであるナマーリはムエタイの使い手として描かれることになったのです。共同監督のドン・ホールにとってもアクションは特にこだわった部分であり、それがラーヤとナマーリの関係性の変化も示す、ストーリー上にも深く関わるものにしたいという気概があったそうです。
その甲斐あって、ラーヤとナマーリのアクションはそれ単体で見応えが抜群であることはもちろん、ストーリーの大きな転換点として見事に機能しているのです。「格闘アクション映画としても最高!」なディズニーのアニメ映画ともいうのも斬新であり、それこそが傑作となった大きな理由でしょう。
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