『ザ・スイッチ』の「6つ」の魅力を徹底解説!最先端のLGBTQ+への向き合い方とは?
4:ゲイの少年が繰り出すギャグの批評性にも注目!
本作は表向きにはスラッシャーホラー、それに青春ものと友情ものの面白さも加わっているのですが、さらにゲラゲラ笑えるコメディとしても存分に面白く仕上がっています。前述した「中身が女子高生のおじさんが超可愛い」ことにニヤニヤできることはもちろんですが、それ以外にも「親友のゲイの少年が繰り出すギャグ」も面白いのですから恐れ入ります。
そのギャグの1つが、殺人鬼との戦いに巻き込まれてしまった彼が全力でダッシュしつつ「ゲイと(もう1人の親友の)黒人にはムリよ!」と言い放つこと。これは、「LGBTQ+のキャラクターが映画の中では可哀想な役かつ最後には死んでしまいがちなこと」や「映画で(現実でも)黒人は差別や偏見に晒され場合によっては命を落としてしまうこと」などへの批評なのでしょう。その上で、そうした「慣習」に習って諦めてしまうのようなセリフの自虐っぷりに笑ってしまう、そんなギャグシーンになっているのです。
そして、終盤にそのゲイの少年が、(ネタバレになるので明言は避けますが)「あるシチュエーション」について母親に「言い訳」をするギャグはもう爆笑ものでした。これもまた笑えると同時に、やはりゲイであることの苦労や偏見への批評にもなっていました。
ゲイやLGBTQ+にまつわるギャグというのは、言わずもがな非常にセンシティブなもの、一歩描写を間違えば人を傷つける不愉快なものになりかねないのですが、本作ではそうした心配はいりません。これは、クリストファー・ランドン監督と共同脚本のマイケル・ケネディが共にゲイであることをカミングアウトしており、自身たちがその苦労をわかっているから、それを「笑い飛ばせる」までの精神力を培ったためなのでしょう。
なお、そのゲイの少年を演じたミーシャ・オシェロヴィッチはノンバイナリーの俳優であり、高校時代に同性愛矯正施設に収容された経験があり、LGBTQ+の若者への精神のケア、摂食障害や薬物依存症などのサポート活動も行っていたそうです。『ザ・スイッチ』の撮影は、自身が高校にほとんど通えなかったからこそ、問題なくゲイの少年として高校生活を体験できたことが楽しかったのだとか。
クリストファー・ランドン監督は、「僕は監督・脚本で表に立つわけじゃないから、ゲイだろうが関係ないけど、役者さんにとってはまだ偏見は存在するから、大変だと思うよ」と、世のLGBTQ+の俳優たちの苦労もおもんばかっていました。監督と脚本家はもちろん、俳優もまたLGBTQ+の当事者であり、その苦労の理解者だったからこそ生まれた、志の高さが確実に『ザ・スイッチ』にはあるのです。
余談ですが、クリストファー・ランドン監督の前作『ハッピー・デス・デイ 2U』の序盤にも、「ゲイへのひどい発言」をギャグにしたシーンがありました。これも全くイヤな気分にならず爆笑できるのは、その「ひどさ」そのものを笑い飛ばすギャグになっているからでしょうね。
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