映画コラム

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2021年08月20日

『猫の恩返し』が公開された2002年、こんな時代だった

『猫の恩返し』が公開された2002年、こんな時代だった


2002年の日本興行収入では『猫の恩返し』が7位にランクイン



2002年の日本興行収入ランキングによると、1位は『ハリー・ポッターと賢者の石』で203億円、2位は『モンスターズ・インク』(93.7億円)、3位には『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(93.5億円)が僅差で付けている。

『猫の恩返し』(『ギブリーズ episode2』と同時公開)は7位で64.8億円。『メン・イン・ブラック2』、『アイ・アム・サム』に続いて10位には『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』がランクイン。国産映画は2本ランクインしており、いずれもアニメーションだ。

興行収入ランキングには入っていないものの、2002年の邦画はウェルメイドな小品から有名作まで次々と登場している。

思い出すだけで怖い『仄暗い水の底から』、当時レンタルビデオ屋に通って居た方が何度も見たであろうジャケットが懐かしい『Laundry ランドリー』、金大中事件を題材にした『KT』、今なお語り継がれる『ピンポン』、今敏の『千年女優』、山田洋次の『たそがれ清兵衛』、そして北野武の『Dolls』。なかでも個人的に思い出深いのは『青い春』『狂気の桜』である。



『青い春』は言わずもがな、松本大洋の短編集『青い春』を原作として豊田利晃が実写化した。舞台は朝日高校という男子校で、その学校にいる不良グループの人間関係を描いている。松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、鬼丸、大柴裕介などのキャスティングも素晴らしく、特に闖入してくる他校の番長がKEEこと渋川清彦なのが衝撃というか笑撃だった。

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが提供した「ドロップ」はもちろん「赤毛のケリー」の使用タイミングも上手く、映画館で観たら今でも鳥肌が立つかもしれない。また曲こそ流れないが壁に落書きされた「野良犬にさえなれない」という文言は『青い春』にピッタリだ。一緒に観た当時の彼女に「あのメッセージはさぁ」なんつってTHE STREET SLIDERSの話をずっとしていて遠い目をされたのも今は懐かしき黒歴史である。



『狂気の桜』は薗田賢次が監督で、「ネオ・トージョー」なるナショナリスト3人組を主人公として、暴力団や右翼団体といった社会の暗部を描いている。と書くとシリアスっぽいが、暴力で粛清しまくるネオ・トージョーの面々は窪塚洋介、RIKIYA(現在は川口力哉)、須藤元気(現在は参議院議員)であり、さらに音楽はK DUB SHINEが担当、主題歌はキングギドラ「ジェネレーションネクスト」である。「あんな不良、いましたよね」は『青い春』のほうがリアルだが、今観てもブッ飛んでいて面白い。何より、当時の渋谷の風景が懐かしすぎる。

ちなみに本作は目黒川で桜が映る印象的なシーンがあるが、あの頃の中目黒は桜のシーズンでも空いていた記憶がある。若干盛ってるかもしれないが、今よりも人が少なかったことは確かだ。駅から1本目の橋に向かう手前からは一段降りられるようになっていて、ビニールシートを広げて花見もできた。

未だ中目黒GTができるかできないかの頃だったし、高架下も立ち退きしていなかった記憶がある。記憶違いだとしても、今と人の流れは大きく違ったし、猥雑で良い街だった。ところで、昔からの中目黒の味を守り続けている「高伸」という街中華がある。もし中目を訪れる機会があったらぜひ行ってみて欲しい。餃子とレバニラとチャーハンを注文すれば、昔と変わらぬ味を楽しむことができる。クオリティは保証する。冗談抜きで美味い。



目線を日本から海外に向けてみると、全世界興行収入ランキングでは『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』が1位、2位以下は『ハリー・ポッターと秘密の部屋』、『スパイダーマン』、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』が続く。



2002年度の作品を扱った2003年の第75回アカデミー賞は『シカゴ』が6部門を受賞。監督賞は『戦場のピアニスト』でロマン・ポランスキー、脚本賞は『トーク・トゥ・ハー』、撮影賞は『ロード・トゥ・パーディション』、長編ドキュメンタリー映画賞は『ボウリング・フォー・コロンバイン』が戴冠。『千と千尋の神隠し』が長編アニメ映画賞を獲ったのもこの年だ。

邦画と同じく、2002年の洋画も佳作から名作まで幅広い。後に続くオーシャンズシリーズの魁となる『オーシャンズ11』、ジャン・レノと広末涼子が共演した『WASABI』、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ初監督作品である『アモーレス・ペロス』も公開されている。

他にもデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』、天才数学者、ジョン・ナッシュを描いた『ビューティフル・マインド』、壮絶な「モガディシュの戦闘」を映像化した『ブラックホーク・ダウン』、ショーン・ペンがとにかく凄まじい『アイ・アム・サム』、今となっては眉唾ものとなってしまったスタンフォード監獄実験をテーマにした『es[エス]』、初見では全く意味のわからなかった『ドニー・ダーコ』などなど、挙げればキリがないのでこのくらいにするが、豊作と言っても問題ないだろう。

※『ビューティフル・マインド』は2001年アメリカ公開、2002年日本公開である。なお、2001年度の作品が対象となる第74回アカデミー賞の作品賞は本作である。



もし何かひとつ作品を選べとなったら、筆者としては『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』をセレクトする。監督・主演のジョン・キャメロン・ミッチェルはその後『パーティーで女の子に話しかけるには』という珍妙かつ素晴らしい映画を撮ることになるが、ヘドウィグが「片割れ」を探し続けたがごとく、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』と『パーティーで女の子に話しかけるには』は、ニコイチで観ることによって完成するような気がしないでもない。

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