『猫の恩返し』が公開された2002年、こんな時代だった
2002年のドラマ・アニメ。覚えていますか『ビッグマネー! 〜浮世の沙汰は株しだい〜』を
2002年はドラマもアニメも盛況だった。ドラマの最高視聴率ランキングを参考にしてみると、1位は『空から降る1億の星』、2位は『人にやさしく』で、以下『ごくせん』、『恋のチカラ』、『ロング・ラブレター〜漂流教室』などが続く。個人的に思い出深いのは、宮藤官九郎が『池袋ウェストゲートパーク』の次に放った『木更津キャッツアイ』だ。『池袋ウェストゲートパーク』は暴走族が一夜にしてカラーギャングになってしまうほどのデカルチャーを田舎者に与えたが、『木更津キャッツアイ』はいわゆる「ご当地感」が出ていたので関東圏に住んでいる方は親近感すら覚えたことだろう。
公開時は大いに笑いながら観ていたが、改めて大人になってから鑑賞してみると、まるで極上の人情噺のように泣けてくるから不思議だ。「木更津」という地理もちょうど良い。『木更津キャッツアイ』で描かれる大都会の周辺部(の田舎)は、現在の目線を採用するならば距離感こそ違えど、ともに「ディズニーランドの外周」を舞台とした『ケンとカズ』や『フロリダ・プロジェクト』を思い出さずにはいられない。ただ、『木更津キャッツアイ』は底抜けに明るく、哀しくて、粋で鯔背で、野暮でいなたい。
また『私立探偵 濱マイク』も公開されている。映画3部作に続くドラマ化で1話ずつ異なる監督を起用している。どの話が好きかは良く酒の席でのネタになるが、筆者としては利重剛が監督したSIONが登場する『ビターズエンド』、次点では「アレックス・コックスが好き過ぎる」という理由から『女と男、男と女』になる。ちなみにドラマ版の主題歌EGO-WRAPPIN'の「くちばしにチェリー」も文句などあるはずないが、映画版で使用された永瀬正敏が歌う「キネマの屋根裏」が最高だ。バックはTHE VINCENTSなのだが、THE VINCENTSはHILLBILLY BOPSとThe TRUMPSが合体したようなバンドで、リーダーの川上はザ・タイマーズでも(2000字中略)だから、とにかくガチなんである。
ここでちょっと想像してみて欲しい。東京に出てきて少し慣れた頃の田舎者が、ある日テレビをつける。そこには永瀬正敏が室内だというのにレザーのロングコート、部屋の中だというのにサングラス、室内だっつってんのにジョージコックスのラバーソウルで、くわえタバコをしながらEGO-WRAPPIN'の「くちばしにチェリー」に合わせて動いている。ガラクタばかりの雑多な部屋で彼は『傷だらけの天使』、『探偵物語』もかくやといった感じで動く、動く、動く。マスキングテープを指に巻き付け、ビルの壁にスプレーを吹き付けると「私立探偵 濱マイク」とタイトルロゴがステンシル印刷される。
これを目撃した若者がどうなるか。真似するに決まっている。第一話放映翌日、筆者が通っていた専門学校の喫煙室のロングコート率は7月なのに跳ね上がり、ラバーソウル率もさらに高く、ジョージコックスの奴も居ればロボットの奴もいるし、他人と差を付けようとヴィンテージのクリーパーを履いてきた奴も居た。無論、シャツは柄物である。その後も影響され続けて家を土足にしたお陰で敷金が返還されなかった奴も片手では足りない。
そしてもう1作、『ビッグマネー! 〜浮世の沙汰は株しだい〜』にも触れておきたい。石田衣良の『波のうえの魔術師』を原作とした株式投資フィクションだ。
就職浪人中で、ひょんなことから相場師として成長していく主人公の白戸則道を演じるは長瀬智也。大資産家で伝説の投資家である小塚泰平には植木等を起用。この時点でもう満点なのだが、ネコ好きの大物総会屋の辰美周二には小日向文世、辰美の部下で寡黙な強面、蒔田に松重豊をキャスティングしている。小日向文世、松重豊のコンビはまるで『アウトレイジ』である。
物語は、半ば詐欺のように「相続保険」を売り続け、被害者たちを食い物にしていた「まつば銀行」サイドと白戸・小塚の投資バトルが繰り広げられていくのだが、まつば銀行の経営企画部調査役にして最悪役、山崎史彦役にははらだたいぞ……原田泰造!?と書いていて自分でも驚いてしまうが、2002年時点の演技クオリティはどうあれ「嫌な奴」感はものすっごい出ている。取引システムをはじめとした設定に関してはおかしな箇所も多々あるが、チキチキ投資バトルフィクションとして観れば今でも十分通じる作品だろう。
ドラマの話はこれくらいにして、2002年のアニメもまた豊作と断じて問題ないだろう。視聴率ランキングでは、2月3日放送の『サザエさん』が25.6%で1位、2位には4月21に放送された『サザエさん』が24.9%でランクイン、3位には24.5%で12月15日放送の『サザエさん』が肉薄。4位以下は『サザエさん』、『サザエさん』、『サザエさん』、『サザエさん』、『サザエさん』と続いている。磯野家強すぎだろう。
磯野家はさておき、同年作品をピックアップしてみると『藍より青し』、『あずまんが大王』、『デジモンフロンティア』、『天使な小生意気』、『灰羽連盟』、『機動戦士ガンダムSEED』、『フルメタル・パニック!』、『最終兵器彼女』、『.hack//SIGN』、そして『NARUTO -ナルト-』などが放映開始となっている。
ちなみに映画の補足になるが、『ドラえもん のび太とロボット王国』、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』、『劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス』も2002年に公開されている。新海誠の初劇場作品『ほしのこえ』も同年だ。
映画と同じく「何か1作チョイスせぇ」と言われたら、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』を推したい。笑い男事件や村井ワクチン、電脳硬化症などを巡る「社会の暗部」を描くメインストーリーも良いが、『タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM』、『全自動資本主義 ¥€$』、『未完成ラブロマンスの真相 ANGELS' SHARE』など時折差し込まれるエピソードも素晴らしい。
とくに『未完成ラブロマンスの真相』に「ANGELS' SHARE」と副題を付けているのが良い。ウイスキーやワインなど、樽で熟成させる酒は熟成中に水分やアルコール分が蒸発してしまう。この蒸発分を「Angels' share」、日本語に直すと「天使の分け前」とか「天使の取り分」と言う。
ワインを熟成させる際には樽中の液量が減ると空気の面積が大きくなり、空気とワインが触れて酸化してしまうと劣化してしまう。そのため、樽にワインを入れて量を補うウイヤージュという工程が行われる。荒巻課長と昔馴染みの美しい女性、シーモアは2人の間にある空白期間をウイヤージュするかのように埋めていくのだ。
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