『そして、バトンは渡された』原作と映画、3つの異なる魅力
物語全体の細かい描写:映画化にあたり”最適解”な脚色
優子を取り巻く環境
映画では、物語全体の細かい描写に大きな違いや描かれていない部分が多々ある。420ページもの大作なのだから、そりゃそうなのだ。
まずは、同性の同級生からの優子への嫉妬心と、優子を取り巻く男子たち。
原作では優子・萌絵・史奈という仲良し3人組がどんどんこじれていく様子が鮮明に描かれているが、映画では冒頭から、優子は完全に”妬まれている”対象だった。
その証拠に、飛び抜けて得意ではないピアノの伴奏者としてクラスメイトから多くの票を入れられていたりする。それもこれも、みんな受験勉強に集中したいからだ。
そして、そんな中でもいつでも誰にでも笑顔を見せて「心配してくれてありがとう」などとスルーする優子。ありゃ妬んでる側としてはますます憎くなっても致し方ない。
優子を取り巻く男子たちも、映画では大幅にカットされている。
映画ではほぼほぼ早瀬くんのみで野球部の浜坂くんでさえチラッとしか出てこないが、原作では浜坂くんが球技大会の実行委員に優子を誘う甘酸っぱい描写や、一組の関本くんに告白されていたという事実、合唱コンクールの伴奏者で一緒になったことから早瀬くんのことを気になりはじめるものの三組の脇田くんと付き合いはじめるなど、想像通りモテモテな優子。梨花の影響をしっかり引き継いでいるらしい。
……ちなみに、原作の浜坂くんに思いを寄せられるところでの「委員を共にした二人が恋人になるのは、よくあることだ。」という一文に、学生時代の”あの頃”がフラッシュバックしてこっ恥ずかしい気持ちになったことは内緒。
ピアノ
次に、優子が早瀬くんと親しくなるキッカケとなる”ピアノ”に纏わるところ。
原作では”合唱コンクール”のピアノ伴奏者となっているところが、映画では”卒業式”のピアノ伴奏者に。行事が異なるので、もちろん合唱曲も違うものになっている。
ここは、圧倒的に映画の”卒業式”描写が本当に素晴らしかった…。卒業式という行事自体、思わず涙を誘うものであるということは前提として、合唱曲が「旅立ちの日に」だったことに、私の涙腺は崩壊した。
20〜30代の卒業式の定番曲である「旅立ちの日に」。無論、私のときもこの曲だった。それこそピアノ伴奏者ではなかったものの指揮者を務めたということもあり、尚このシーンにはジーンとさせられた。素晴らしい脚色に感謝。
他、早瀬くんとの関係値や、優子の短大卒業後など、原作と映画で異なる描写は多々ある。が、どれも映画化にあたり最適解な脚色であることは間違いない。
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(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会