『そして、バトンは渡された』原作と映画、3つの異なる魅力
森宮さんの人物像:”原作のまま”の森宮さんも、ちょっと観たかった
原作でも映画でもキーパーソンとなっている、森宮さん。森宮さんの人物像にも、大きな違いがあった。
血の繋がらない娘・優子のためになんでもしたいという思いから生まれる”不器用さ”と、それを生み出す”人としてのズレっぷり”、ここは共通しているのだが、田中圭演じる森宮さんは、原作とは違って”誰もが羨ましがる理想のお父さん”そのものだった。
決して原作の森宮さんが理想のお父さんではない、ということではないのだが、原作の森宮さんは”不器用さ”や”人としてのズレっぷり”が顕著に浮き彫りになっていたのだ。
優子が高校三年生を迎える始業式の朝、「母親は子どものスタートの日にかつを揚げるって、よく聞くもんな」と、受験日でもないのに意気揚々とカツ丼を用意する森宮さん。
ここまでは「かわいいなぁ」くらいに思えるのだが、「森宮さんは食べないの?」と質問する優子に「俺、朝からカレーでも餃子でもいけるんだけど、さすがに揚げ物はなあ。」と答える森宮さん。
「いやいやそんだけ重いもん食べさせとるやないかい」と全私が総ツッコミした。
また、読んでいるとクスッとなってしまうほどの厭味ったらしさも原作の森宮さんには健在。
早瀬くんとの結婚に猛反対する森宮さんをなんとか説得しようと、他のお父さんから承諾を得る”囲い込み作戦”を実行しようとする優子に「へえ。泉ヶ原のおっさん賛成だったんだ。案外ちょろいやつだったんだな」といちいち鼻につく森宮さんにクスッとしながらも少しあきれてしまう。
映画では「もし優子ちゃんが病気になったら運転して連れてかなきゃいけないから、二十歳になるまでは禁酒って決めたの」と言って、どんなにお酒に合いそうな料理であっても断固としてノンアルコールビールしか飲まない森宮さん。
原作でも同様の決心をしているものの、「餃子やおでんなど、アルコールに合うおかずが並ぶとガンガンお酒を飲む。身勝手な覚悟なのだ。」と優子が呆れていることから、森宮さんに関しては映画化にあたり人物像を大幅に変更したと考えられる。
やはりこれは、「女子高生がお父さんにしたい芸能人ランキング」1位である田中圭の宿命なのだろうか。もちろん「理想のお父さん」も満足なのだが、『おっさんずラブ』の春田のような”理想像とは違う田中圭”も拝みたい気持ちもなくはない。
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(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会