<2021年総括>映像コンテンツ産業10大ニュースを今ここで振り返る
7:Amazon、MGMを買収
このニュースはコロナによる業界勢力図の変化を象徴するニュースでしょう。Amazonが「007」シリーズなどを擁する映画会社MGMを買収しました。100年近い歴史を持つ老舗中の老舗の映画会社ですが、コロナによって新作の公開ができず、経営難に陥っていたところを配信競争でコンテンツを拡充したいAmazonの思惑が重なり買収が成立しました。
買収額は約9,300億円で、これはこれまでのAmazonの買収案件で2番目に高額。配信プラットフォーム競争は、独占コンテンツをいかに増やすかの勝負になってきていますが、一番手っ取り早い方法は買収です。今後、映像産業は配信プラットフォームを持つ事業者を中心に寡占的な競争になっていくと思われ、今回の買収はその先駆けとなるのではないでしょうか。
市場の寡占・独占化は必ずしも全体にとって良い結果になりませんが、当面はこの流れは続くでしょう。
8:ファスト映画が示した「タイパ」重視の価値観
ファスト映画とは、YouTubeなどで映画を無断でアップロードし、字幕やナレーションをつけて解説する動画を指す言葉で、多くは約2時間の作品を倍速再生して圧縮したものにあらすじを載せて投稿されています。今年になって、この言葉がメディアで取り上げられ、実際に摘発もされています。
投稿者の多くは広告費目当てのもので、有罪判決は妥当なもの。しかし、こうした動画が人気となった背景を考えると、そこには時代の変化が複雑に絡み合っています。2時間ある映画を、2時間かけずに内容を把握できる「タイパ(タイム・パフォーマンス。時間あたりの効率の良さを示す言葉)」の良さが受けているわけです。これまでの著作権侵害はコンテンツに金をかけたくない「コスパ(コスト・パフォーマンス)」重視の考えでしたが、ファスト映画はそれに「タイパ」の価値観が加わっています。
劇場での映画鑑賞って、一回1900円で約2時間拘束されるので、コスパとタイパの価値観の反対にあるわけです。これらの価値観の増大に映画という産業は対応できるのかというのは、ファスト映画が駆逐されても、重大な課題として残されています。
9:ハラスメント、低賃金労働…映画産業の体質改善急務
あらゆる業界で、労働環境の改善が叫ばれる時代になりましたが、映画産業も例外ではありません。これまで見過ごされてきた労働問題の改善は、映像産業でも急務の問題として浮上しています。
アップリンクのパワハラ問題、京都でミニシアターを運営するシマフィルムの低賃金労働問題や、制作現場の長時間労働、東映社員のセクハラと過重労働告発、さらには映画雑誌『映画秘宝』の恫喝事件など、2021年は労働をめぐる様々な問題が噴出した一年になりました。
これらの問題は、今年多く発生したというより、これまで見過ごされてきた問題にスポットライトが当たるようになったということです。
それは問題解決のための第一歩で、その一歩を意義あるものにするためには、ウヤムヤにせず、問題に向き合う姿勢が必要です。
人口減少時代に突入した日本は、どの業界も人材を確保するのに必死な様子。労働環境の改善をせねば優秀な人材は集められない時代になっています。
実際、好きな映画が誰かの犠牲で作られていると思うと、素直に応援できないと感じている映画ファンも増えており、映画ファンを増やすためにも労働問題の改善は重要だと思います。
10:濱口竜介監督、海外映画祭で絶賛の嵐
(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
今年は、濱口竜介監督が世界の映画賞を席巻しました。ベルリン国際映画祭で『偶然と想像』審査員グランプリ受賞、『ドライブ・マイ・カー』がカンヌ国際映画祭で脚本賞含む4冠受賞を皮切りに、世界の映画祭、批評家から絶賛が相次いでいます。
12月に入り、アメリカでは賞レースシーズンが本格的に始まりました。各映画賞で『ドライブ・マイ・カー』の受賞ラッシュとなっており、アカデミー賞ノミネートの期待が高まっています。この勢いはポン・ジュノ監督の『パラサイト』を彷彿させ、国際長編映画賞のみならず、脚色賞や作品賞など主要部門も十分に狙える状況になってきました。
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おまけ:『劇場版 呪術廻戦 0』大ヒットスタート
C)2021「劇場版 呪術廻戦0」製作委員会 (C)芥見下々/集英社
12月24日に公開開始された『劇場版 呪術廻戦 0』が、初日の3日間で観客動員190万人突破、興行収入は26億円の大ヒットスタートとなりました。
2021年の公開映画としては最も大きなスタートを切った作品となっており、100億円を超えるのはほぼ確実と思われます。今後どこまで『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の記録に迫れるのかが注目されます。今年は、昨年から続く『無限列車編』の大ヒットで始まり、『呪術廻戦 0』で終わる1年となりました。少年ジャンプ作品のアニメ化は、続々と発表されており、この勢いがどこまで大きくなるのか、来年以降も目が離せません。
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映像コンテンツをめぐる状況は、上映と配信の関係、さらには現代人の価値観の変化、労働問題の改善と様々な要素が複雑に絡み合い、変化の激流が起きています。2022年は映像産業にとってどんな年になるでしょうか。コロナ禍を抜け、配信も劇場もたくさんのコンテンツがなんの気兼ねなく楽しめる状況になるといいですね。
(文:杉本穂高)
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