2021年「魅力的な映画ポスター」ベストテンを独断で大発表!

第3位『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』


(C)カラー

今年は余白を巧みに使った映画ポスターが多かったように思える。例えば、『MONOS 猿と呼ばれし者たち』では、緑の空気渦巻く画を引き立てるように、隅にタイトルや惹句を記載した。また『マルジェラが語る”マルタン・マルジェラ”』では、白紙の端に縦書きでタイトルや映画情報を記載する斬新なポスターに仕上がっていた。公の場に姿を表さないマルタン・マルジェラの特性を汲み取り、余計な色を観客に与えない工夫が施されているのだ。

さて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』である。「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」と画を貫くように中央配置された惹句。その文言を読み、視線をズラすと、碇シンジ、綾波レイ、式波・アスカ・ラングレー、渚カヲル、そして真希波・マリ・イラストリアスの姿が確認できる。陰惨とした地獄の底を魅せた前作『Q』に対して、爽やかな空気が漂う。

まるで卒業式が終わり、校門前で羽を広げているような感傷的な構図に涙すらした。本作が完成するまでに10年近い長い長い時がかかった。このポスターの空白には、観客の想いを書き込むスペースがあり、また彼ら/彼女らの空白を埋める物語であることを示唆している。

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日本公開日/2021年3月8日

監督/庵野秀明

出演/緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子

第2位『セミマゲドン』


(C)コンマビジョン

『セミマゲドン』ほど口ずさみたくなる映画はそうそうないであろう。個性的なサメ映画を中心に日本のファンへ送り届けるコンマビジョンが放った最終兵器『セミマゲドン』。邦題はもちろん、ポスターも好奇心揺さぶられるものとなっていた。デカデカと描かれたタイトル『セミマゲドン』、そこには無数のセミが様々な角度で、人間を狙っている。背景には業火が見え、事態の深刻さが伺える。男は銃を構えているが、その矛先にはセミはいない。圧倒的物量のセミに死の予感を感じさせる。

惹句は「最終蝉戦争(セミマゲドン)、勃発。」あまりにも甘美なポスターに、Don’t wanna close my eyes.瞳を閉じたくなくなることでしょう。

日本公開日/2021年8月12日※セル・配信スルー

監督/デヴィッド・ウィリス

出演/デヴィッド・アギレラ、ネイサン・アレクサンダー、ニコール・アンソニー

第1位『あのこは貴族』


C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会


門脇麦演じる富める者・華子と水原希子演じる貧しき者・美紀の関係を描いた『あのこは貴族』。双方の辛辣な力関係がポスターにも現れている。このポスターが提示された時、あなたは門脇麦、水原希子どちらに注目するだろうか?

その答えはおそらく前者であろう。都会が映る真っ白な背景を背に、黒い服装に身を包んだ彼女の姿が確認できる。背筋を伸ばし、上品な座り方をする彼女。この構図を前に我々は思わず、『あのこは貴族だ』と言いたくなるであろう。

ふと、左に目を向けると影から顔を出すように水原希子の存在がいる。黒背景に少し青味がかかった服に身を包む。門脇麦と比べて上の方に顔がある。本来であれば、最初に水原希子へ視線が向くはずが、なぜか門脇麦へと視線が向いてしまうのは筆者だけだろうか。

区切られた空間の中で極端に白の領域と黒の領域が分かれたとき、我々は前者に目を向けがちだ。それは暗闇の中で光を探す感覚に近い。その白の領域の中心を支配しているのは門脇麦であり、いくらビシッと構えていても主導権を奪うことができない。『あのこは貴族』における残酷な境界線を象徴する映画ポスターに仕上がっていた。

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日本公開日/2021年2月26日

監督/岨手由貴子

出演/門脇麦、水原希子、高良健吾

2022年に期待したいポスター像

2021年は、いくつか問題となる映画ポスターがあった。『MONSOON モンスーン』では、本国のポスターでは存在していた同性の恋人が消されたものとなっていたし、フランソワ・オゾンの『Summer of 85』ではバイセクシャルのダヴィッド(バンジャマン・ボワザン)のピアスを消したポスターが物議を醸した。

もし同性愛描写があることを隠すためにこのような変更を行っているのだとしたら問題である。映画の魅力を伝えることこそ映画ポスターの役割であり、映画内の重要な要素を隠してしまうことは魅力を損ないかねない。

また、『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』の映画ポスターでは、役者のシワが除去されたものとなっている。これも役者本来の魅力を損なっていることはもちろん、シワがある人=美しくないとルッキズムに陥っているとも言える。

映画ポスターは、魅惑の世界へ導く存在だ。それだけに、映画本来の魅力を引き出すポスターを2022年も期待したい。2021年は同性愛を扱った映画ポスターに課題があっただけに改善されることを祈る。

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(文:CHE BUNBUN)

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