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2023年01月15日

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』良い意味で心がズタボロにされた経緯と「毒親の解像度の高さ」を語る

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』良い意味で心がズタボロにされた経緯と「毒親の解像度の高さ」を語る



あの場面でスレッタが笑ってしまった理由もある、そして残された希望

さらに、ミオリネにとって最悪だったのが、スレッタが「えへへ、締まらないなぁ」と言って、笑顔のまま血まみれの手を差し伸べてきたことだ。

思い返せば、第10話でスレッタは「スレッタ、忘れった」と言って生徒のみんなと一緒に笑ったりもしていた。他にも冗談に笑っていてオジェロから「笑い事じゃねえぞ。お前も(ミオリネのように)遠くなる」とたしなめられることもあった。彼女は、笑い合える友達ができていたからこそ、同じくテロリストを殺し自分を救ったプロスペラもまた微笑んでいたからこそ、あの場面で笑ってしまったのだとも言える。

しかも、ミオリネは「命を救う技術」としてガンダムであるエアリアルを、企業のPRとして推していた。花婿がいきなり目の前で人殺しをする衝撃だけでなく、自分が起こした企業の理念をぶち壊す光景も目の当たりにしたのだ。

そんなわけで、ほとんど覆しようのない、一生物のトラウマを背負ったミオリネだが、まだ希望はあると思う。何より、スレッタとミオリネも生きている。そもそも、スレッタがやったことは、花嫁を守るための正当防衛でもある。スレッタの目を、ミオリネや周りの人たちが醒まさせてやることも不可能ではないと思うのだ。

また、スレッタの「やりたいことリスト」は(おそらく)プロスペラではなく自分の意志で考えているようであったし、第4話では「水星に学校を作る」という夢を語り、水星に住む人たちから寄せ書きをしてもらったことや、お守りももらったことを語っていて、しかも「私がやりたくてやっているから」と明言している。スレッタは完全にはプロスペラの操り人形ではない、彼女の「意志」は確実にある。洗脳から解かれることも、十分にありうると思うのだ。

『アイの歌声を聴かせて』も母親の「闇」がすごかった

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会
(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

さて、そんな脚本家・大河内一楼の毒親の解像度の高さを知る上で、うってつけの教材がある。それは、2021年公開のアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』である。本作がいかに素晴らしい作品であるかは、この記事をぜひ読んで欲しい。

【関連記事】『アイの歌声を聴かせて』が大傑作である5つの理由

そして、こちらにも「この人一見するとまともそうだけど、実はヤバいのでは……」と思ってしまう母親が出てくる。しかも、『水星の魔女』のプロスペラとは、「優秀な研究者であり、暗い過去を抱え、ちょっと(だいぶ)行き過ぎな言動をしてしまう」ことも共通している

さらに、この『アイの歌声を聴かせて』でも、主人公の母親が引き起こす、とあるショッキングな出来事がある。その直前からかなり辛いシーンがあり、それも含め初めて観た時は本気で絶望したのだが、それもそのはず、共同で脚本を執筆した吉浦康裕監督と、大河内一楼は、豪華版Blu-rayのブックレットで、その「落とす」様について、こう語っている。



吉浦康裕「あそこをクライマックスのつもりで盛り上げて、ドーンと落とすという。

大河内一楼「なるべくその“崖”は高い方がいいよねと話しながら」



そう、大河内一楼は比喩的な意味で、崖から登場人物を突き落とす作家なのだ。その崖の「底」があまりに深いからこそ、その後の「復活」がより感動的になるし、観るものの心を揺さぶるのだろう。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会
(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

とはいえ、『アイの歌声を聴かせて』で紡がれるのは、人は死んだりしないし、とてつもない「幸せ」に包まれる、ポジティブで感動的な物語だ。

また、『アイの歌声を聴かせて』の主人公の母親は毒親スレスレでもあるが、それでも十分に感情移入ができるし理解もできる、豊かなキャラクターになっていたと思う。パンフレットによると、この母親は吉浦康裕監督の実母がモデル。しかも、大河内一楼は娘との「正義感が強くて不器用なところが似ている」関係性を、すごくこだわって書いていたのだそうだ。

この他にも、『水星の魔女』と『アイの歌声を聴かせて』には「ロボットをとても大切にしている女の子が主人公」「ツンツンしている女の子とお互いに引っ張っていく関係性になる」「子どもと大人の対立構造が描かれる」など共通点が多い。そのため、『水星の魔女』の第12話にショックを受けた人にこそ、ハッピーな気持ちになれる(でもちょっと怖くもある)『アイの歌声を聴かせて』を、是が非にでも観ていただきたいのだ。



そして、『アイの歌声を聴かせて』は「1本の映画の中でこれほどまでみんなが大好きになれることは、今までも、これからも絶対にない」と断言できるほどキャラクターが魅力的だった。それに匹敵するほど、それぞれの関係性をとても尊く感じられたのが、同じく大河内一楼の作品である、この『水星の魔女』だったのだ。

そうであったはずなのに、『水星の魔女』の第12話のラストでご覧の有り様となり、過去の代表作『コードギアス 反逆のルルーシュ』も追って履修したところ、第22話の「血染めのユフィ」でやはり「なんてことをするんだ!」となり、完全に「闇の大河内一楼」にもハマってしまった。

ありがとう、これからも大河内一楼の作品を追い続けます。今はDMM TV独占で『LUPIN ZERO』も配信しているし!そして、4月から始まる『水星の魔女』第2クールでは、グエルくんとスレッタとミオリネを幸せにしてください。あと、アニメ映画史上最高の大傑作『アイの歌声を聴かせて』は各種配信サービスでレンタル中なので、全人類観てください!

▶『アイの歌声を聴かせて』をAmazonプライムビデオで観る

(文:ヒナタカ)

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