【不朽の名作】 全力でオススメしたい「2000年以前公開の映画」たち
■『カル』
2000年11月日本公開の韓国映画『カル』は、ソウルを舞台に猟奇的な連続バラバラ殺人事件をゴア描写たっぷりに描いたサスペンス作品。当時は同年に公開された『シュリ』の爆発的なヒットによって韓国映画が大きな注目を集め、『シュリ』と同じハン・ソッキュ主演作という意味でも『カル』は話題を呼んだ。
雨が降りしきる中での展開や凄惨な事件現場、オフィーリアなど意味深に提示される“モチーフ”が存在していることからも、本作がデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』に影響を受けていることは疑いようがない。また本作の魅力であると同時にとても厄介なのが、1度鑑賞しただけでは全ての真実にたどり着けない“複雑な物語”にある。
本作ではチェ刑事(ハン・ソッキュ)と相棒のオ刑事(チャン・ハンソン)が解決への糸口を掴む間もなく、次々とバラバラ死体が発見されていく。しかも切断された体の一部が入れ替えられるなど不可解な点が多く、チェ刑事と視点を共有するかたちで観客も頭を悩ませるはずだ。ようやく被害者共通の接点としてチェ・スヨン(シム・ウナ)が浮上するも、やはり有力な手掛かりを得られないままバラバラ殺人は進行してしまう。
もちろん真犯人の正体が明らかになる真相編が用意されているものの、その衝撃度とちぐはぐなままのパズルのピースを前に呆然とするばかり。チャン・ユニョン監督もなかなかいやらしく「6回鑑賞すれば真実にたどり着く」という冗談とも本気とも取れる言葉を残している。公開時には『カルの謎』と題したガイドブックが発売されたほどだが、本作の明確な“答え”は今もって明かされていないまま。かくいう筆者も10回以上鑑賞してようやく、「これ以上の答えは思いつかない」というところまではたどり着けたような気がしている。
思いのほか血糊の量が多い作品のため、おいそれと勧めることはできないが、近年の謎解き系サスペンスドラマが好きな方はぜひチェックを。
■『ナビィの恋』
(C)オフィス・シロウズ=東京テアトル
連続テレビ小説『ちゅらさん』の放送よりも早い1999年12月に公開され、“沖縄ブーム”の礎となった本作。中江裕司監督が手掛けたミュージカル要素たっぷりのコメディ作品であり、沖縄県粟国島に里帰りした東金城奈々子(西田尚美)を主人公に物語は進む。それまでハリウッド作品やメジャー配給の邦画ばかり観ていた筆者にとって、ミニシアター系作品の良さに気づかせてもらえた最初の1本だ。
本作の魅力の1つは、全編を彩る数々の音楽シーンにある。沖縄民謡を中心としつつ、それだけに捉われない選曲と構成は実に多彩。フィドルで奏でられるケルト民謡「ケルティック・リール」をはじめ、「ロンドンデリーの歌」や「ハバネラ」といった楽曲群が粟国島ならではの空気の中で奏でられていく。
そもそも恵達(おじぃ)役の登川誠仁は沖縄を代表する三線奏者。“沖縄のジミヘン”こと登川のユーモアと哀愁感漂う演奏シーンは必見だ。さらに『ピアノ・レッスン』で知られるマイケル・ナイマンが情感豊かなテーマ曲を提供するなど、美しい風景とともに画面を彩る音楽群が実に心地いい。
また本作の主軸でもある、平良とみ演じるナビィ(おばあ)と島を追放されていたサンラー(平良進)のドラマチックな物語の魅力も負けていない。かつてナビィとサンラーは恋仲の関係にありながら引き裂かれてしまった経緯があり、サンラーが島に戻ってきたことでナビィと恵達夫婦のあいだに変化が生じ始める。いわば過去の大恋愛をきっかけに物語が動いていくのだが、ナビィ・恵達・サンラーの関係がドロドロと描かれることは決してない。むしろ人生を達観した者同士にしかわかり合えない、妙に清々しい空気すら漂わせている場面も見受けられた。
美しい旋律と共に語られる、ナビィの恋。三者が下す決断は繰り返し観てもこみ上げる涙を抑えきれず、それでいて鑑賞後には不思議と気持ちのいい余韻を残す。筆者の邦画実写ベストであり、音楽映画が好きな人にぜひ観ていただきたいオススメの作品だ。
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■『女優霊』
中田秀夫監督×高橋洋脚本コンビによるJホラーの金字塔『リング』と迷ったのだが、筆者の「最も怖いホラー映画」としてここは1996年3月公開の『女優霊』を紹介したい。本作はそれこそJホラーブームの火付け役であり、貞子の原型ともいえる怪異が登場する中田監督の出世作だ。とある映画制作の現場で未現像フィルムが混入し、映り込んでいた“何か”を見つけたことで監督の村井(柳ユーレイ)や主演女優・ひとみ(白島靖代)ら関係者が異様な状況に巻き込まれていく。
上映時間80分未満の作品ながら、じわじわと観る者を追いつめる恐怖演出は「さすが中田監督」としか言いようがない。映画撮影スタジオというどこか陰鬱な空気をまとう舞台が効果的に機能しており、得体の知れない何かが潜んでいるような空間に息が詰まるばかり。そして最も功を奏しているのが、フィルムに映り込んだ“何か”の正体が徐々に姿を現していく“チラリズム的”な恐怖演出。はじめはフィルム内の女優の背後にうっすらと“長い髪”と“肩”が重なっており、やがて“それ”の姿は場所を変えたロケバスの窓にごくうっすらと(しかしそれが“女性”だとわかる程度に)映り……。
モンスターパニックでは『ジョーズ』の人食いサメのように、モンスターを部分的に映して観る者の想像力を煽る“モンチラ”演出がある種の定番。それが本作の場合は中田監督の手によって幽霊へとかたちを変え、観客自らがその姿を想像して膨らませることで恐怖を倍増させる。本作のモンチラならぬ霊チラ(?)演出は『リング』でさらに磨きがかかり、呪いのビデオを見るたびに貞子の露出度が増していくという説得力のある描写へと昇華された。
もちろん『リング』も大好きな作品であり、その後の『らせん』や『リング2』『リング0 バースデイ』も含めて繰り返し鑑賞しているJホラーだ。しかし映画撮影スタジオで発生する怪異に的を絞った『女優霊』は、シンプルな物語だからこそより一層身近に恐怖を感じてしまう。本音を言えばクライマックスは粗削りな演出に首を傾げたくなるのだが、それでも全体を通して筆者の「最も怖いホラー映画」であることには変わりがない。そんな作品を敢えて“夜中に1人で観る”のが密かな楽しみだということも、最後につけ加えておこう。
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■まとめ
他にも繰り返し観ている2000年以前の公開作品をざっと挙げると、『ミッション:インポッシブル』(今もシリーズで一番好き)、『ヒート』(圧巻の市街地銃撃戦と後世に影響を与えた世界観)、『遊星からの物体X』(クリーチャー映画の傑作)、『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(特撮映画の最高到達点)、『ゴジラ』(今から約70年も前の作品とは思えない特撮の完成度)などがお気に入り。そのすべての魅力を語り尽くしたいところだが、過剰な自分語りになりかねないためこの辺りでブレーキをかけよう。ここで紹介した作品が、映画史に燦然と名を残すような作品でないことは重々承知。それでも筆者に今なお強い影響を及ぼしているように、どんな作品でも誰かにとっての“名作”に成り得るのだ。そんな映画が1つでもあるならば、周囲を巻き込んででも、ぜひ「オススメするから観てみて!」と声を上げみてほしい。そうして作品は人から人へと広がり、たとえ何十年過ぎようとも忘れ去られることなく語り継がれていくに違いない。
(文:葦見川和哉)
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