かが屋「キングオブコント」決勝の舞台に返り咲き!笑って泣ける新感覚のコントが魅力
彼らが歴代最高得点となる963点を叩き出したように、今年のキングオブコントは全体的にレベルが高かったように思う。ずっと笑っぱなしだった。
だけど、そんな中で笑いながらちょっぴり泣いてしまったコントがある。かが屋のコントだ。どうしても今一度、彼らの魅力を語りたくて筆を取った。
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“歪に見えて円”なコント
見た目だけで説明すると、長髪色白の賀屋さんと短髪細身の加賀さんによるお笑いコンビ「かが屋」。マセキ芸能社所属、今年で結成8年目。
キングオブコントでは2019年に決勝に進出したものの、翌年は不参加となった。それは加賀さんが2020年秋から体調を崩し、8ヶ月間休養していたからだ。昨年は準決勝進出。
そして今年、2019年以来、2度目の決勝進出を果たした。決勝の舞台に、かが屋が返り咲いた!それだけでも目が潤んでしまいそうなのに、披露したネタが「これぞ、かが屋」と思わせる珠玉のコントでグッとこみ上げてくるものがあった。
ネタは賀屋さん演じる会社員の女性の先輩と、加賀さん演じる男性の後輩が和食料理屋か寿司屋のカウンターで飲んでいるという設定。会社では優しい先輩の様子がいつもより当たりが強くて、後輩は戸惑っている。
そんな2人が交互にトイレで席を外し、共通の同僚に電話をかけるのだが、そこで徐々に明らかになっていく事実が人を笑わせる。実は、どうやら後輩は“ドM”らしく、先輩は彼に好かれたくて“ドS”として振る舞っていたのだ。
最初はよくいる色気を履き違えた先輩かと思っていたのに、その事実を知ると途端に可愛く見えてくる。しかも、SMに関する知識が乏しいあまりに相手を喜ばせるより空回って困らせてしまっているのが可笑しい。
一方、後輩も同僚との電話で、先輩が自分のためにSMクラブの女王様を演じてくれていると知る。「賀屋さん、僕がドMなの知ってるんですか!?いや、やめてくださいよ!」から「賀屋さん、僕がドMなの……知ってるんですか?(覚醒)」までの、後輩が全てを理解する流れが最高。
その後、2人は需要と供給を満たし合う関係性になるのだが、大将にパワハラと勘違いされてしまう。個人的にビビッときたのは、この時の後輩の台詞。
「大将からするとね、歪な関係に見えるかもしれないんですけど、“円”なんです!」
これ以上なく、かが屋のコントを言い表している台詞だと思った。
歪に見えて円。以下、かが屋の公式YouTubeチャンネル「かが屋文庫」より独断と偏見で厳選したコントからその魅力を語りたい。
理解できない必死さに笑いと感動が生まれる
それにしても、「かが屋文庫」というチャンネル名も秀逸だ。かが屋のコントはコントなんだけど、一つの物語として成立している。登場する人物の一人ひとりがしっかりとキャラ付けされていて、まるで実在しているかのようだ。ストーリー性のあるコントという観点から、選んだのはこちら。2021年8月11日に公開されたコント「田舎の家族」。
加賀さんは岡山県出身、賀屋さんは広島県出身ということで、珍しく山陽地方の方言が満載でものすごく“とある田舎の家族”感が滲み出ている。加賀さんの小指で頭を掻く仕草とか、賀屋さんの何かと深刻そうな喋り方とか、芸の細やかさと演技のうまさに思わず感心。
さて、このネタは「国道沿いの、くら寿司が潰れる」という噂を聞きつけた夫婦の会話から始まる。田舎出身の人ならわかると思うが、これは一大事だ。田舎の国道沿いにできた回転寿司なんて、休日の昼間だと数時間待ちレベル。大人も子どもも大好きで、もはや娯楽施設みたいな場所。
それがもし潰れたら……というテーマ設定が、かなり具体的だけど共感できるギリギリを攻めている。
かが屋のコントがすごいのは2人しか登場してないにもかかわらず、その他の登場人物の姿が浮かび上がってくるところ。このコントでも加賀さん演じる父親が電話をかけた、くら寿司店長の人柄や反応までもが伝わってくる。
「(息子の直樹が)くら寿司入ったらパッと花が咲いたように笑うんですよ」
そんな熱い思いを打ち明けられた店長の気持ちを考えるだけで、何やら泣けてくるのだ。
冷静に考えれば、回転寿司一つでそこまでシリアスにならんでも……と思うかもしれない。だけど、その地域の人にとっては何にも変え難い場所で、何よりこの夫婦は最後の会話からも分かるようにそこまで裕福ではないんですよね。家族みんなでまた行けるように頑張ろう!と思わせる、くら寿司の力がここで分かる。
周りの人からは理解しがたく、だけど当人たちは必死。そこに笑いが生まれるし、最後は感情移入して感動もまた生まれる。歪というほどでもないけれど、やっぱり“歪に見えて円”なコントだと思う。
いじわる、なのに温かみのある眼差し
かが屋のネタはちょっと“いじわる”と言われることがある。それは多分、2人が演じている人物がどこかにいそうで、あるある要素が含まれているからだと思う。筆者が特にお気に入りなのが、かが屋文庫でも10月12日に配信されたコント「喫茶店」。加賀さん演じる男性が店長を務める喫茶店に、賀屋さん演じる初回客が来店する。客が女の子の店員をナンパし、その子に好意を寄せている店長が助けるというネタだ。
ここでも2人のキャラ付けにちょっとした意地の悪さを感じる。加賀さんが演じるのは、従業員の女の子に本気で恋しているけど、セクハラとかの問題もあるし積極的にはアピールできない、優しいけど優しい止まりで終わりそうな店長。
一方、賀屋さんが演じるのは、男の店員には当たりが強くて偉そうだけど、女の店員にはとことん甘く調子に乗ってナンパするタイプの客。「あ〜こういう人いるよね(ニヤニヤ)」という、うがった見方がそこにはある。
そんな2人が痛い目を見る……という展開ならよくあるけど、それはちょっと意地悪すぎる。かが屋のコントが好きなのは、どんなキャラクターも最後には愛おしく感じさせてくるところ。いじわるな眼差しと、温かい眼差し。それが不思議と共存している。
この喫茶店のコントでも、自分は怖いのに頑張ってナンパを阻止する店長の優しさとクスッと笑える気弱さと、そんな店長の勇気を認めて女の子との仲を深めようとしてくれる客の漢らしさがいい。
「かっこいいじゃん」と褒められて泣いてしまう店長にも、素直に謝る客にも同時にキュンとしてしまう。まあ、最終的に店長の恋は叶わなくて気まずい雰囲気で終わるのだけど、これも人生だよねと思わせる切なくて心温かるコントだ。
世界のどこかにある日常風景
最後に紹介するのは、コント「駆け込み乗車」。これは加賀さんが休養し、しばらくピンで活動していた賀屋さんが「R-1グランプリ2021」で披露したネタでもある。
台詞という台詞がほとんどないのがミソ。「駆け込み乗車はおやめください」のアナウンス後、賀屋さん演じる男性がホームに滑り込んでくるのだが、電車が発車してしまう。髪はぐちゃぐちゃで、息も絶え絶え。電車を見送る情けない表情からその絶望が伝わってくる。
でも、本当の絶望はこれから。下ろしたリュックの中から取り出したのは、蓋が開いたコーヒーのペットボトル。かが屋文庫で公開されている動画ではここまでだが、ピンネタの時はコーヒーに染まった原稿(男性は出版社勤務と思われる)と絡まったイヤホンまで出てくる。
激しい息遣いと絶望に染まっていく表情だけで、賀屋さんは状況を鮮明に伝えてみせた。1人の時も、その隣で笑いを堪えている加賀さんの姿がたしかに見えた。
画面の向こうにいる人たちを、世界のどこかで起きているかもしれない日常風景に連れ出す。そんなかが屋のコントが好きだ。
かが屋印のコントに今後も期待!
賀屋さんがピンで活動していた8か月間。加賀さんは医師からドクターストップをかけられ、休養していた。その時の出来事や心境について、2021年4月7日に放送されたニッポン放送「ナイツ ザ・ラジオショー」で語っている。お母さんの前歯が欠けていたようで、休むために実家に帰ったけど、「母親をいい家に住まわせてあげなきゃいけない」というプレッシャーに襲われたという加賀さん。それで予定よりも3ヶ月休養期間が伸びたそうだが、その間に相方である賀屋さんはプレッシャーやストレスから、歯ぎしりにより前歯が欠けてしまったらしい。
「母親(の前歯)が欠けてるのを見て頑張らなきゃと思って。見舞いに来てくれた賀屋が前歯かけてるのを見て、絶対に戻らなきゃと。
『やばいやばい、二人も前歯をかけさせちゃった』って。そこからだいぶ元気に(なりました)」
そう、加賀さんは振り返った。私はこのエピソードがたまらなく好きで、かが屋のコントそのものだなと思った。もちろん加賀さんの体調不良は笑い事ではないし、お母さんも賀屋さんもそれはそれは心配だったに違いない。でも前歯が欠けちゃうくらい必死だった2人も、それを見て元気を取り戻した加賀さんにもとてつもなく愛があるなと思う。
くすっと笑えて、その次にじんわりと涙が出てくるコント。その評価が、かが屋の2人にとって喜ばしいものかどうかはわからないけれど、少なからず他にはない魅力だ。今回のキングオブコントでは惜しくも優勝を逃してしまったが、これからもどうか独自の路線を突っ走ってほしい。
(文:苫とり子)
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