<ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
▶︎「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」画像をすべて見る直哉(山田裕貴)たちが水源を見つけて飲み水が確保できたことで、乗客たちに少しの希望が見えたかに思われた矢先、直哉が大切にしてきた美容師道具のハサミが入ったバッグが田中(杉本哲太)によって持ち去られる事態が発生する。問い詰めると田中は、帽子を被った怪しい人物を目撃し、護身用としてハサミを持ち出したのだと言う。そんな田中の言い分を信じられず、バッグを紛失されたことにいら立つ直哉。一方、優斗(赤楚衛二)たちは食料を調達しに向かうが突如、紗枝(上白石萌歌)の身にある異変が生じて…。さらに、佳代子(松雪泰子)はここで生きていく希望を失いかけていて…。乗客たちに更なる試練が襲い掛かる…!
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第3話のレビュー
このなかに、殺傷事件の犯人が紛れ込んでいる。植物に詳しい、大学院生の加藤(井之脇海)が、おそらくその“異分子”に腹部を刺され、出血してしまう展開で終わった第3話。殺傷事件を起こすような人間が、水も食料も限られた極限状態に置かれたら……想像するだけで血の気が引いてしまう。不安定な挙動が目立っていた田中(杉本哲太)も、ついに電車内から離脱することを決め、別個で暮らすことを決めた。現実世界に戻ることを完全に諦め、30年後の未来で生きることにしたらしい。それはそれで好きにしたらいいのでは、と思ってしまうが、人一倍正義感の強い白浜(赤楚衛二)はそれを許さない。
「俺は、みんなを助けたい。それだけだ」
そう言って、輪から離脱した田中さえ救おうと動く白浜。正義感を通り越して聖人君子、仏の生まれ変わりかと思うほど誠実な人間だ。いざ本当に自分が同じ状況に置かれたら、こんな人に場をまとめてもらいたい……と強く思う。それと同時に、ここまで人を疑うことを知らない存在から消えていくのが現実だろう、と無慈悲なことも考えてしまう。それほど、白浜は群を抜いて信頼できる人物だ。
またもや、白浜と対照的に描かれるのが、萱島(山田裕貴)だ。白浜が人を信じる立場なら、萱島はとことん周囲を疑うタイプと言えるだろう。
車内に乗り合わせた高齢者や外国人観光客に対し、「いつも誰かがなんとかしてくれると思うなよ」「動かない、役に立たない」「そういうヤツから死んでくぞ」と、少々乱暴な言葉で発破をかける萱島。荒いやり方だが、彼の言うことには一理ある。
何事にも筋を通そうとする白浜に対し「正しくいれば危険はなくなるか?」と萱島が問うシーンがある。いつだって、正論がまかり通るわけではない。ましてやこんな極限状態、役に立つか立たないかという、あからさまに人としての価値をジャッジされるような環境下で、正しいことばかりが善とは言えないだろう。
無事に生き残り、元の現実へ戻るためには、白浜と萱島どちらのスタンスでいるのが“正”で“善”なのだろう。簡単には答えが出ないような問いを、このドラマを次々と投げかけてくる。
萱島が発破をかけたおかげか、各々ができることを探し、少しずつ暮らしの土台が整ってきた。高齢者にロープの作り方を教わる高校生の構図などを見ていると、たとえば縄文時代などはこうやって生活していたのだろうな、と漠然と想像できる。彼らが飛ばされたのは30年後の未来だったはずだが、古代に回帰したかのような光景だ。
個別に行動しはじめた田中を探しに出た白浜だが、結局は姿をとらえることができずに帰ってきた。代わりに手にしていたのは、萱島の商売道具であるハサミのセットだった。
弟が幼い頃から必死で働き、ギリギリのところで生計を立ててきた萱島。彼にとって、弟・達哉(池田優斗)が事件を起こし警察に捕まってしまった事実は、そこはかとなく暗い影を落としただろう。
必死でやってきたのに、報われない。ここまで尽くしてやったのに、恩を仇で返される。萱島は、警察に連行される達哉の姿を見ながら、自分の無力さを悟っていたのではないか。達哉に対する文句や嘆きよりも、ここまでやってきたことは無意味だったのだと、自分で自分を責めていたのではないか。
そんな無意識な心の動きを、白浜は感じ取ったのかもしれない。「やるだけやってきて、立派だよ」……そう伝えると、萱島は、これまで必死に張ってきた防波堤を崩すかのように泣いた。そして、素直に「会いてえなあ」と言った。
現実世界で出所した達哉も、ラーメンを食べながら口元に手を当て、声を押し殺しながら泣いていた。その所作が、まるっきり兄である萱島と一緒だったことは、きっと偶然ではない。
※この記事は「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」の各話を1つにまとめたものです。
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