『君たちはどう生きるか』がわかりやすくなる「8つ」の考察|宮﨑駿が“アニメ”または“創作物”に込めたメッセージとは
8:アニメ映画や創作物は、友だちになれる
※以下、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と『千と千尋の神隠し』のネタバレに触れています。ご注意ください。
現実の世界に帰ってきた眞人は、キリコの人形と落ちていた石とを持ち帰ったことに対して、アオサギにこのように言われる。
「お前、あっちのこと覚えているのか。忘れろ忘れろ、普通みんな忘れるんだ」「持ち帰った?これだから素人はいけねぇんだ」「(キリコの人形に対して)強力なお守りだ」「(石に対して)大した力はない、じきに忘れちまう」「でも、それでもいいんだ。じゃあな、友だち」
これらの言葉が意味するところは言うまでもないだろう。
アニメ映画や創作物はお守りのように人の心を強くしてくれるかもしれない、もしくは大した力はなくて忘れてしまうのかもしれない。だけど、友だちにはなれる。そう宮﨑駿監督は、ストレートなメッセージとして打ち出したかったのだ。
人間(キャラクター)であるキリコのお守りのほうは、現実で似た友だちを見つけられるかもしれない、という点において“強力なお守り”なのだろう(しかもその場でお守りはおばあちゃんのキリコへと変身する)。一方で、そのあたりに落ちていた石は、そのキャラクター以外のアニメや創作物における一要素なので、“大した力はない”と宮﨑駿は自覚しているのだろう。
そのことを、まさに親友であった高畑勲監督をモデルにしたと思しきキャラクターに言わせたのだ。しかも、今まで敬語で話していたはずのアオサギは、それこそ友だちのようなフランクな(でもやっぱり小憎らしくもある)しゃべり方になっていた。
アニメや映画を観て、「救われた」「人生が変わった」と言うことはよくあるかもしれないが、それを友だちと見立てるというのは珍しいが、なるほど本質的な捉え方なのかもしれない。
いつかは忘れたりするかもしれないけど、一緒にいて楽しい思い出が残ったりもする、友だちだと思えるほどの創作物は、なんと素晴らしいのか、その言葉をアオサギと交わした眞人は、かつての宮﨑駿であると同時に、世間一般の観客でもあり、これから新たな作品を世に送り出すアニメや創作物のクリエイターの姿でもあるのだろう。
そして、眞人は下の世界で大叔父に「ヒミやキリコ、アオサギのような友だちを(現実で)見つける」ことを、まさに目標として語っていた。ラストで家族と共に東京に帰る際に、母の形見でもある小説の「君たちはどう生きるか」を鞄に入れていた。
創作物は作り物であるし、劇中で展開するのは現実にはあり得ないファンタジーだったりもするが、そこから何かを持ち帰った(一緒に帰ってきた)り、何かの目標を見つけてもいいんだと、「観客をアニメから現実へと送り出してくれる」ことから思い出したのは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』だった。
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“最後に何かが残る”ことは、『千と千尋の神隠し』のラストで千尋の髪留めが光ったことも連想させる。
その頃から、これまでが夢の世界のように思えても、それはすべてがなかったことになるような夢ではない、転じて創作物やファンタジーから得られるものはあるはずなんだという、宮﨑駿の意図が込められていたように思えたのだ。(それでいて、千尋は冒頭と同じようにトンネルの中で母にすがりついており、ガラリと成長できるわけでもないとも示されていた)
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また、アニメ映画または創作物の一要素に大した力はないと、どこか達観している姿勢は、現在Netflixなどで配信中の『アイの歌声を聴かせて』と良い意味で対照的でもある。こちらは、既存のアニメ映画や創作物の力を、“友だちになれる存在”を通じて、見事に打ち出した作品だからだ。
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いずれにせよ、宮﨑駿が友だちという言葉を持ってして、今まで自身の作品や、アニメ映画や創作物を親しんできた人へメッセージを送る『君たちはどう生きるか』は、なんとやさしい作品なのかと、改めて思わざるを得ない。
奇しくも、宮﨑駿監督またはスタジオジブリ作品の影響をはっきり受けていると思われるスタジオポノックの最新作『屋根裏のラジャー』は、イマジナリーフレンド、つまりは想像上(創作上)の友だちを描いた映画となる。新たな友だちとの出会いも楽しみにしつつ、宮﨑駿監督作を見直したりして、これまでの友だちともまた再会してみたい。
(文:ヒナタカ)
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