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『ゲド戦記』を深く読み解く「3つ」のポイント|なぜ父殺しをしたのか?宮崎吾朗が監督を務めた理由は?

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スタジオジブリ作品『ゲド戦記』は、宮崎駿の長男・宮崎吾朗が初監督を務めたことや、主題歌「テルーの唄」も話題になり、興行収入は76億円を突破する大ヒットを記録しました。

本作には、はっきりと描かれていないためにモヤモヤしてしまう要素や、観念的すぎてわかりにくいシーンも数多くあります。ここでは、その疑問を少しだけでも解消できるかもしれない、さらに作品を奥深く知ることができるポイントについて解説してみます。

もくじ

1:なぜ主人公は“父殺し”をしたのか?

2:“影”とはいったい何であるのか?

3:“均衡が崩れた世界”が示すものとは何か?

まとめ:そもそも、宮崎吾朗が監督を務めた理由は?

『ゲド戦記』作品情報

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※以下からは本編のネタバレに触れています。まだ映画を観たことがない、という方は鑑賞後に読むことをおすすめします。

1:なぜ主人公は“父殺し”をしたのか?



映画のオープニングは、主人公のアレンが“立派な”王である父を刺してしまうという衝撃的なものです。

監督が何しろ宮崎駿の息子であり、本編でアレンが父を刺した理由が明かされることもないのですから、この“父殺し”は当然のように現実の宮崎駿と宮崎吾朗の親子の軋轢を揶揄しているのではないか、と憶測がされていました。これは、アーシュラ・K・ル=グウィンの原作小説には存在しないシーンでもあります。

しかしながら、「宮崎吾朗は偉大な父である宮崎駿を殺したがっていたんだ!」と短絡的に解釈するのは間違っています。なぜなら、この父殺しを提案したのは、宮崎吾朗ではなく鈴木敏夫プロデューサーであるからです。

宮崎吾朗が初めに描いたオープニングの絵コンテは「お母さんがアレンを逃してあげる」というものだったのですが、鈴木プロデューサーは「映画の冒頭には“ケレン”が必要」、「吾朗くんも父親のコンプレックスを払拭しなければ世の中に出られない」という意思のもと、アレンが父親を刺してしまうというオープニングを提案したのです。

宮崎吾朗はこの提案に「え?刺していいんですか?」と初めは驚いていたそうですが、一方で「腑に落ちたところも大分あります」とも答えています。その理由は、単純にアレンが父を憎んでいただとかそういうことではなく、「若い頃には自分で自分をコントロールできなくなる、なぜ自分がそんなことをしたのかわからないことがあるんです」や「自分を取り巻いている隙間のない存在の象徴が父親だと思ったんです」ということだったのだとか。

すなわち、この父殺しが指しているものは、宮崎駿と宮崎吾朗というごく限られ関係だけを指すのではなく、もっと普遍的な、閉塞感に悩み、衝動を抑えられない若者たちの心を捉えていると言っていいでしょう。



本編でアレンもまた、中盤に「わからないんだ、どうしてあんなことをしたのか」、「ダメなのは僕のほうさ。いつも不安で自信がないんだ。それなのに時々、自分では抑えられないくらい、凶暴になってしまう」と、“理由がわからない”ことそのものに悩んでいたことを打ち明けます。(それは、テルーの美しい唄を聞いた後のことでした)

思えば、宮崎駿監督作品には、『紅の豚』でポルコが豚になった理由であったり、『魔女の宅急便』でキキが魔法を使えなくなった理由であったり、『崖の上のポニョ』でポニョがトンネルを怖がった理由であったりと、“明確な理由づけをしない”ことが多くあります。これらは説明不足と言うよりも、「観た人それそれぞれが想像を働かせて解釈して欲しい」、「観た人それぞれの悩みに寄り添うものであって欲しい」という意図を感じます。この優しく、深読みもできる宮崎駿の作風を、宮崎吾朗は受け継いだと言えるのではないでしょうか。

また、宮崎吾朗は「僕としてはアレンその人になったつもりはなく、アレンという子がずっと横に立って彼を見ていた感じです。彼と同化するのではなく、もっと客観的な状況で彼を捉えて、全体の中ではどうなんだと、横で見ていた」とも語っています。この発言からも、アレン=宮崎吾朗であると、単純に考えるべきではないでしょう。

まとめると、本作の冒頭で父殺しが行われたのは、元々は鈴木プロデューサーからの「宮崎吾朗が偉大な宮崎駿へのコンプレックスを乗り越える」というメタファーを(おそらくは話題を集めるためのマーケティングも)含めて提案されていたものだったが、宮崎吾朗監督自身はもっと客観的な視点で、普遍的に若者へ訴えるものであると捉えて製作に取り組んでいた、ということなのです

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