映画コラム

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2018年01月12日

『ゲド戦記』を深く読み解く「3つ」のポイント|なぜ父殺しをしたのか?宮崎吾朗が監督を務めた理由は?

『ゲド戦記』を深く読み解く「3つ」のポイント|なぜ父殺しをしたのか?宮崎吾朗が監督を務めた理由は?


まとめ:そもそも、宮崎吾朗が監督を務めた理由は?



宮崎吾朗は『ゲド戦記』の監督になる前、造園コンサルタント業や三鷹の森ジブリ美術館の総合デザインなどを手がけており、それまでアニメーションを作ったことはありませんでした。そうであるのに、なぜいきなり長編アニメ映画の監督を務めることになったのか……その理由は、企画の難しさから監督候補だったアニメーターが降りてしまったこと、“彼ならできる”と鈴木プロデューサーが感じたことにあるそうです。(宮崎吾朗は監督をすることにさすがに躊躇はしたものの、この申し出を断ることはなかったそうです)

もちろん、ただ見切り発射で宮崎吾朗が監督に抜擢されたわけではありません。宮崎吾朗は作画開始前に絵コンテをすべて揃えるという目標を掲げて成功していたり、「あいつは絵がヘタだ」と息子の監督業を許そうとはしなかった宮崎駿をイメージイラストを描き上げて認めさせたりもしました。(その後も宮崎吾朗はスタッフをまとめあげる類まれな統率力を発揮したり、炊き出しをしてスタッフに食事を振る舞ったこともあったのだとか)

鈴木プロデューサーは、宮崎吾朗による絵コンテを観て驚いたそうです。まるで経験があるかのように描き上げたばかりか、それはまさに“宮崎アニメ”と言える出来栄えだったからです。それを見た鈴木プロデューサーは、宮崎吾朗が監督を引き受けた理由を、「ずっと映画が作りたかったからだ」と納得したのだとか。

完成した『ゲド戦記』は、明らかに不完全なところがあり、作画やキャラクターの魅力も宮崎駿作品には及ぶものではない、というのが正直なところです。

しかしながら、作品の背景には、宮崎駿の血を引き継いた才覚や、宮崎吾朗の“ただアニメを作りたい”意欲が見えます。何よりも、不安な時代に生きる若者へのエールにもなっている本作をことさらには否定したくはありません。確かな意義のある映画であったと、筆者は肯定したいです。

おまけその1:宮崎駿の名作『シュナの旅』を読んでみよう






実は、映画『ゲド戦記』にはル=グウィンの小説とは別に“原案”となる作品が存在します。それは、1983年に宮崎駿が描き上げた絵物語『シュナの旅』です。

『シュナの旅』で厳しい環境にさらされた人々や、奴隷や人買いが登場することなどが、映画『ゲド戦記』と共通しています。実はこの『シュナの旅』自体も小説『ゲド戦記』の影響を受けているため、宮崎吾朗が父・宮崎駿を意識した映画を作る土台としてはうってつけだったというわけです。

『シュナの旅』には宮崎駿作品すべてに共通する優しさや美学がはっきりと表れている一方で、その作品群の中でも随一のシビアな世界が描かれています。まだ読んだことがないという方は、“宮崎駿の真髄を知れる”ことを期待して読んでみることをおすすめします。

おまけその2:『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』との共通点があった!





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現在公開中のアニメ映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は、“『この世界の片隅に』の再来”と言われるほど、口コミで評判が評判を呼び、ロングランヒットを記録しています。奇しくも、『ゲド戦記』における「限りある命がなぜ大切なのか」という問いが、この『クボ』で同様に示されているのです。

『ゲド戦記』での“命の大切さ”の教えは直接的すぎて説教臭くなってしまいましたが、『クボ』ではそれらはごく自然に描かれており、かつ「人はなぜ物語を必要とするのか」というさらなる普遍的な問いにも1つの答えを提示しています。(両作品には、高畑勲監督の『太陽の王子 ホルスの大冒険』を彷彿とさせるところもありました)

『クボ』の監督は宮崎駿作品に影響を受けたことを明言しており、大人も子どもワクワクできる冒険活劇は“往年のジブリ映画”のような印象もあります。宮崎駿の作風を受け継ぐ映画を観たいという方は、ぜひ『クボ』も劇場で堪能してみてください。

※筆者はこちらの記事も書きました↓
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は全日本人が必見の大傑作!その素晴らしさを本気で語る!
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』特別座談会!闇の姉妹の魅力やストップモーションアニメの意義を大いに語る!

(文:ヒナタカ)

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