<虎に翼 最終章編 >23週~最終週の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第113回のレビュー
第112回でよね(土居志央梨)が、国際法学者の嘉納隆義(小松利昌)に「原告はいまを生きる被爆者ですが」と問いかけたことを受けるかのように、寅子(伊藤沙莉)は「いま苦しんでいる被爆者はどこに助けを求めればよいかとお考えですか」と問いかけます。でも、嘉納は法学者として答えられることはないと返しました。この場にいる誰もが、感情としては被爆者へに想いを寄せるものの、法的にどうしようもないという忸怩たる思いを抱えているように見えます。
弁論が終わったあとの法廷で国側の指定代理人の反町忠男(川島潤哉)と嘉納が語り合います。
反町はあくまでも、被爆者個人への同情から国際法を拡大解釈するわけにはいかないと淡々としています。
「法は法それだけです」
(反町)
感情を排し、法律に準ずる意思を示す反町に、嘉納はお互い大変なものを背負わされているねとつぶやきます。立場が違っていたら、このふたりの言動も変わるのでしょう。本来最も優先しないといけないのは被爆者の苦しみを少しでも救うことであるはずなのに、国民を守るために法律があるはずなのに、法律が優先で、被爆者の苦しみは後回しになる。なんとも理不尽です。
この原爆裁判は長々やっていてもまったく注目されてもいなかったのですが、ふたりの法学者の鑑定が行われた記事を竹中(高橋努)が雑誌で発表すると、にわかに注目が集まり、傍聴人がどっと増えました。その記事の見出しは「被爆者はどこに助けを求めればいいのか」です。
雲野(塚地武雅)の願いが届いたのです。
が、甘味処で桂場(松山ケンイチ)は、寅子に、上から原爆裁判は早く終わらせるよう言われたと告げます。
無力感に苛まれる寅子。航一(岡田将生)も記事を読み、胸のうちにためているものを夫の僕に少し分けてくれないか、と言ってくれますが、星家では、百合(余貴美子)はお財布がないと騒いでいます。痴呆症が進行しているのです。
仕事でも家庭でも無力感を覚えることばかり。さらに寅子自身は更年期で、身体の変化に戸惑っていて……。例えば、急に家電が一斉に壊れることがあるように、ヘヴィな案件が重なるときは重なるものと言いますが、寅子にのしかかるこの3つの案件はかなり重い。でも、聡明な夫もいるし、家族で乗り切るという流れになっているようです。
原爆裁判は、被爆者のひとり広島の吉田ミキさんが証人尋問に立ってくれることになりました。なかなか法廷に立つことを承諾する人がいないのは、注目されたくないという心情ゆえ。轟(戸塚純貴)は法廷に立つことでひとり矢面に立たされる危険性もあることを懸念します。
「どの地獄で何と戦いたいのか 決めるのは彼女だ」
(よね)
「なぜいつも国家の名のもとに個人が苦しまなければならないのか。すべて国民は個人として尊重される」
(寅子)
まずは個人の問題――離れていてもよねと寅子の考えていることは共鳴し合っています。この時点で判事がかなり原告寄りなのはいいのかよくわかりませんが。
星家では、百合子の痴呆症に最もやりきれなくなっているのはのどか(尾碕真花)でした。百合子がシチューを腐っていると鍋ごと捨てて大騒ぎになっているところに帰宅して、家に入るのをためらって玄関先でタバコを吸っているのを、優未(毎田暖乃)がとがめます。
すると、百合子は、のどかをかばうのですが、のどかは迷惑そうで、銀行勤務なんてしたくなかったのに、百合子に勧められてしぶしぶだったことを恨んでいるようで。いまさらそのことを蒸し返します。
優未は、最も関係性の薄い百合子の世話をしているのに、百合子は優未を邪険にしてのどかを大事にする(痴呆症になるまえは優未をかわいがっていたのに、心の奥にしまってあった長いこと一緒に暮らしたのどかへの情や責任感などが増幅したのでしょう)。それも耐え難いでしょうし、のどかがいつまでも
大人にならないことにも苛立って、「バカ!」と罵り、蹴りまで入れてしまいます。
カッとなると、暴力にうったえてしまう、昔の寅子のようです。
どうなる星家。
のどかは学生の頃からむしゃくしゃすると、玄関先でタバコを吸っていました。兄・朋一(井上祐貴)も。玄関という人の出入りのある場でタバコを吸っていたら目立つと思うのですが(匂いも残るだろうし、ふつうは裏庭とかではないかと)、なぜ玄関なのか。セットの問題としてしまうと身も蓋もないので、立派な家の正面玄関を汚すという背徳行為を楽しんでいるのではないかと考えてみました。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
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