『おおかみこどもの雨と雪』賛否両論の理由を考える:なぜ狼の姿でベッドインしたのか?【解説/ 考察】
4:花の“本当の笑顔”とは
もう1つ、作中で明確に批判されていることがありました。それは花が亡くなった父から“辛いときにでも、無理やりにでも笑顔でいろ”と教えられたことです。
花はその父の葬式の時にまで笑顔になっていたので、親戚から「不謹慎だ」と批判を浴びていましたが、“彼”からは「不謹慎じゃない」と肯定をされていました。この“辛い時でも笑顔でいること”そのもの、それを肯定してしまうことにも、拒否反応を覚えた方が多いでしょう。
ところが、田舎暮らしを始めて「ここは自然がいっぱいでいいところですね」などと笑顔であいさつをしていた花は、韮崎さんに「何が自然だ、木を植えて育つわけじゃない。なぜ笑うんだ、笑っていたら何もできんぞ」と、その態度を一刀両断されていました。そして花は「お母さんが何も知らないのがいけないの。お父さんにいろいろ聞いておけばよかった」と反省をしているのです。
この後に花は必死で畑を耕し、周囲の人と交流をするようになって……“辛い時の愛想笑い”ではなく、心から笑えるようになっていきます。たとえば、再び出会った韮崎さんの前で笑ったのは、こっそり花の面倒を見てやるように声をかけていたという韮崎さんのツンデレっぷりのためですものね。
さらに、雪と雨がおおかみの姿で雪山をかけまわった後、花は2人を抱き、大きく口を開けて笑いました。高く積もった雪は、田舎の人が“大変”と言っていたことの1つであったのに、それでさえも3人は楽しいこととして、心から笑うことができた。これまで辛い時でも無理やり笑顔でいた花が、2人の子どもと一緒に笑顔になるこのシーンの、なんと感動的なことでしょうか!
また、田舎の人たちは「すぐにコンビニがない、カラオケがないって言うぞ」、「すぐに根をあげて出て行くさ」などと、花のことを軽んじたもの言いをしていましたが、彼女はその場所での暮らしを諦めることはありませんでした。
花は確かに排他的なところがあった、なんでも1人で背負い込んでいた愚かしいところもあった。だけど、そんな彼女はこどものために決して諦めないという強い心を初めから持っていて、周りと交流することで“自身の間違った価値観”をも正していった……これこそが、細田監督の描きたかった“理想”なのではないでしょうか。
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(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会