アニメ好きライターが選ぶ2021年TVアニメBEST10|作り手のパッションに祝福を

第3位「バクテン!!」



は?? 予告編になんかすっごいシーン混ざってなかった??

と、もうアニメが始まる前からワクワクが大気圏を突破していた「バクテン!!」。男子新体操という、正直それまで馴染みがなかったスポーツに一瞬で引き込まれた作品だ。

新旧の男子新体操選手たちによる実際の演技をモーションキャプチャーでアニメ化するにとどまらず、指先つま先など細かな部分を作画で表現するその丁寧さ。実際に筆者は、築館先輩の花が開くような美しさを放つ指先までの演技に、予告段階で落ちた。



そしてアニメ第1話、約3分間の衝撃。キャラクターたちがただただ演技をするシーンだけが流れた。そこには解説もなければ、競技を見ている観客の姿も描かれていない。

1人ひとり異なる、腕を振り下ろす速度や空中技からの着地タイミングからは、その選手が何が得意なのかが見えてくるようだった。この試技シーンを見たときに「ああ、なんて男子新体操に真摯なアニメなのだろうか」と感じた。

また舞台となった宮城の空気感やキャラクターたちの日常の描き方も丁寧だった。なかでもご飯描写は、すっからかんのの胃を刺激されるに違いない。主人公・翔太郎の実家ご飯に出てきた餃子なんて、噛んだら口の中をやけどする、肉汁がふきだすタイプのやつだった。これらの日常描写は、競技をしている瞬間だけがスポーツ選手をつくるのではないという事実を改めて示してくれたと思う。



ここまで真面目に丁寧にスポーツとそれに打ち込む若者たちを描いたアニメ作品はあっただろうか。そう思わずにいられない、個人的スポーツアニメの傑作だった。2022年には劇場版も公開予定だ。アオ校の演技が大きなスクリーンで観られるなんて……。ああ、なんという贅沢だろうか。

第2位「Sonny Boy」

突然謎の世界に飛ばされ漂流することを余儀なくされた、中学3年生たちのサバイバルを描いた「Sonny Boy(以下、サニボ)」。同作は、おそらく繰り返し観ても「答えが定まらない」「わからない」作品だと思う。



登場人物の言動がわからないという点では、7位に選んだ「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」と共通している。しかしサニボは、あえて「わからせない」ようにしているかとすら思えるアニメだった。なぜなら説明が本当にないからだ。

登場人物の人となりや出来事の背景を深く知るきっかけとしてよく使われるモノローグ。サニボは、これがほぼない。しかもキャラクターの心情をものがたる劇伴音楽も必要最低限。登場人物の個性や背景を紐解くには、そのときのキャラクターの言動や目の前で起こった出来事を見逃さないようにする必要がある。

キャラクターたちに芽生えた超能力。彼らを縛るルールらしきもの。サバイバルをする世界もころころ変わる。考察のしどころは満載だ。気合を入れて考察するしようとするのだが、あまりにもピースが少ない、いやむしろ多すぎるため、頭が混乱する。ただこの混乱がとても楽しいのだと、サニボは気づかせてくれた。

丁寧に説明してくれるアニメは、その世界にすんなりと没入できるから好きだ。しかしそれ以上の思考が生まれるかと言われたら、難しい。サニボはその思考を巡らす時間を楽しんで、と呼びかけてくれる作品だったと思う。

「あなたが青く見えるなら、りんごもウサギの体も青くていいんだよ」

これは8位に選んだ「ブルーピリオド」で、主人公の八虎が尊敬する森先輩からかけられた言葉だ。この作品の受け止め方も、きっとこれに通ずる。この作品をどう考察するか、どんなメッセージを受け取るか、それは観たその人だけのものなのだと

逮捕者も出たファスト映画の風潮からも感じ取れるように、昨今の世の中は、結論への最短ルートが求められがちだ。そんな世の中においてサニボは、アニメを通して自分の考えと向き合う時間を届けてくれた。

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