<大奥>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
▶︎「大奥」画像をすべて見る有功(福士蒼汰)は、家光(堀田真由)から贈られた猫に『若紫』と名付ける。若紫の存在で家光と有功の距離は次第に縮まっていく。一方で、有功の部屋子・玉栄は有功のことを良く思わない者たちから嫌がらせを受け始める。有功もまた玉栄の変わった様子が気がかりになっていく。そんな中、有功と家光を繋ぐ若紫を巻き込んだある事件が起こってしまうのであった…
第3話のレビュー
<凍え雛 一羽身を寄せ 坊主雛 千の恵や 功有らんと願ふ>原作にはないオリジナルの和歌をラストに入れ込んだ脚本家・森下佳子。そこに至るまでの展開も見事で、「大奥」第3話はその鮮やかな構成力に唸らされっぱなしだった。
亡き父・家光の身代わりとして生きている千恵(以下、家光/堀田真由)と、春日局(斉藤由貴)に無理やり還俗させられた元僧侶の有功(福士蒼汰)の出会いが描かれた前回。本来の人生を奪われたもの同士、何か感じるものがあるのか、家光は有功に一匹の猫を与えた。
その猫に有功は『源氏物語』に因み、“若紫”と名をつける。ここまで原作と流れはほぼ同じだったが、脚本家の森下はこの『源氏物語』をドラマでさらに膨らませていく。
なぜ猫に若紫という名をつけたのかという会話の中で明らかになるのは、家光が『源氏物語』を知らないという事実。江戸時代には広く知られるようになったこの物語を身代わりとはいえ、将軍である家光が知らないとはどういうことか。
それは、家光が江戸城に入ってから十分な教育を受けていないことを意味しているように思えた。徳川の血を引く子供を成すためだけに連れてこられた家光もとい千恵。その瞳は常に悲しみの色に染まっており、いつ爆発するやもしれぬ怒りを抱えている。
だが、有功といる時は、その悲しみや怒りが少しだけ小さくなっているような気がした。それ自体が喜ばしいことであるのに、春日局にとって家光が抱えている傷など、子を持てば治ると思っている。亡き家光の身代わりとはいえ、子供の頃から見てきた彼女に対しての愛情が一切感じられないことが悲しかった。
しかも、春日局は光源氏のように歌を詠み、家光の心を掴むよう有功にアドバイスをする。あろうことか、春日局は『源氏物語』で描かれる恋物語に家光は憧れていると思っていたのだ。
しかし、家光本人が言うように、彼女は光源氏を求める女たちの気持ちに共感できない。家光の気持ちなど御構い無しに周りが子を産むよう、どうにか本人を動かせようとしている。そのことが、『源氏物語』という“小道具”を使うことでより強調された。
女性としての人生を奪われ、男性の格好をさせられている家光。にもかかわらず、子を成せと言われる家光の「女の腹だけは貸せと言う」という台詞に脳天を撃ち抜かれたような気がした。これまで、彼女を子を産む機械、道具ではなく、ひとりの人間として大切にしてくれる人はいなかったのだ。
そこにようやく現れたのが、有功だった。家光の過去を全て知った有功の行動があまりに素敵すぎる。有功は家光に女性モノの打掛を羽織らせ、「千恵」という元の名で呼びかけるのだ。それは家光にひとりの女性として、またひとりの人間としての尊厳を再び与えたことに他ならない。
この時、有功は冒頭の和歌を家光に送った。猫である“若紫”の由来になった『源氏物語』が何段階も活用され、ここに集約される展開に鳥肌が立つ。
ちなみに原作では、「それは二羽の傷付き凍えた雛が互いに身を寄せ合うように始まった恋であった」というモノローグが抱き合う二人のシーンに添えられている。和歌はそのモノローグから創作されたものであろう。この粋な演出と、家光の子供のように泣きじゃくる姿、そしてそんな家光に慈愛に満ちた眼差しを送る有功の姿に涙が止まらなかった。
※この記事は「大奥」の各話を1つにまとめたものです。
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