映画コラム

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2019年04月12日

『風立ちぬ』を深く読み解く「10」のこと!

『風立ちぬ』を深く読み解く「10」のこと!


2:宮崎駿が抱えた“矛盾”が表現されていた?

宮崎駿は「兵器が大好きだけど戦争のことは大嫌い」という大きな矛盾を抱えた作家でもあります。鈴木プロデューサーによると、宮崎駿は昔から趣味として戦闘機や戦車を描いていて、自宅の本棚には戦争にまつわる本や資料が並んでいて知識は専門家顔負け、その一方で完全に平和主義者であり、戦争反対のデモに参加していたこともあったのだそうです。



その宮崎駿が抱えた矛盾が(過去の作品と比較しても)最も表れているのが、この『風立ちぬ』です。劇中の時代は大正から昭和に向かっており、不景気や大震災により社会には不安が蔓延し、太平洋戦争の足音も聞こえてきています。主人公となる堀越二郎は確かに「美しい飛行機を作りたい」と純粋に願う青年ではあったのでしょう。しかし、その激動の時代に航空技術者になれば、必然的に人を殺す道具になり得る軍用機を作ることになります。ある意味では、宮崎駿は「兵器が大好きだけど戦争のことは大嫌い」という自身が抱えていた矛盾を、劇中の二郎の「美しい飛行機を作るが(時代のせいで)それは必然的に人殺しの道具になってしまう」という足跡を通して表現しているとも言えるのです。

劇中の二郎はその矛盾や葛藤についてほとんど口にしませんが、(原作マンガにはわずかにしか登場しなかった)本庄という二郎の親友ははっきりと矛盾について語っています。「貧乏な国が飛行機を作りたがる。それで俺たちは飛行機が作れる。矛盾だ」「本腰を据えて仕事をするために所帯を持つ。これも矛盾だ」と。後にも詳しく書きますが、『風立ちぬ』は全篇において、戦争の時代にあったありとあらゆる矛盾を描き、それによる残酷な事実をも露わにしていると言っても過言ではないのです。



なお、この「兵器が大好きだけど戦争のことは大嫌い」という矛盾は特殊な考えのようにも聞こえますが、鈴木プロデューサーは「宮崎駿だけに限ったことではないのでは?」と疑問を投げかけています。その証拠に、戦後当時の子供雑誌には太平洋戦争の架空戦記物がたくさん載っていて、その後に民主化が進んで多くの人が戦争反対を唱えている一方で、社会の中には根強く戦争の関心が続いていたではないか、と。現在でも戦争にまつわる映画、もっと言えば戦車や銃器による戦いや死が描かれた作品が作られ続けている(大衆がそれを望んでいる)というのも、宮崎駿が抱えている矛盾と大きな差はないのかもしれません。

余談ですが、二郎が宮崎駿そのものとも言えると同時に、軍用機作り(の現場)はアニメーション制作(の場所)のメタファーであるとも捉えることができます。その証拠に、原作マンガの「風立ちぬ」において、二郎が就職し設計技師となってすぐは「もちろんヒコーキの形なんか描かせてもらえない。部品の製図ばかりをしている。まあアニメーターの新人と同じだな」と注釈がつけられていたり、後で七式艦上戦闘機を作るという大役を任された二郎が文字通りに重いプレッシャーをかけられた時にも「まあ(アニメの)新人監督と一緒だな」と書かれていたりもするのです。技術者が意見を口々に言い合ったりするのも、アニメ制作の現場そのままのようでしたね。



さらに余談ですが、劇中の飛行機のプロペラ音、車のエンジン音、関東大震災の地響きまで、劇中の効果音が“人の声”で録られているというのも本作の大きな特徴で、これは三鷹の森ジブリ美術館で上映されている「やどさがし」がアイデアの元になってます。うがった見かたではあると思いますが、この人間の声を使うというアナログな手法も、コンピュータを使わなかった当時の軍用機作りに通じているようにも思えます。

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(C)2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

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