映画コラム

REGULAR

2019年04月12日

『風立ちぬ』を深く読み解く「10」のこと!

『風立ちぬ』を深く読み解く「10」のこと!


5:“ピラミッドのある世界”が意味しているものとは?

カプローニは、主人公にこうも告げています。「ピラミッドのある世界とない世界、どちらが好きだね?」「空を飛びたいという人類の夢は、呪われた夢でもある。飛行機は破壊と殺戮の道具になる宿命を背負っているのだ。それでも私はピラミッドのある世界を選んだ。君はどちらを選ぶかね?」と……。これに二郎は「僕は美しい飛行機を作りたいと思っています」と答えています。



ピラミッドとは王様のお墓でもあり、その権力を示すもの。その造形および規模が見事で後世にも残ろうとも、はっきり言って何の役にも立ちません。しかも、ピラミッドとは往々にして、多数の者たちの上にごく一部の優れた者がいるという世界の構造のことも指しています。劇中で線路を歩いてまで仕事を探している人々や、夜遅くまで親の帰りを待つ子供たち(二郎はその子供たちにシベリヤをあげようとするが受け取ってもらえなかった)はピラミッドの“下”にいる存在であり、そのように日本が貧しい状況にも関わらず軍用機を作り続けている二郎はピラミッドの“上”にいる存在なのでしょう。

そのように、多くの人の苦しみながら生きているピラミッドのある世界で、才能にも環境にも恵まれた二郎は“上”で生きている、そのために美しい飛行機を作るという夢を叶えることができる(その飛行機=軍用機はカプローニがどう言おうとも時代のせいで必然的に人殺しの道具になってしまっている)……これは確かに“呪われた夢”です。その残酷な事実をもって(あるいは全く意識することなく)「美しい飛行機を作りたい」と願う二郎は、ある意味でとんでもなくエゴイスティックな存在とも言えるのです。



なお、カプローニはメフィストフェレスという悪魔かもしれないと前述しましたが、その夢の中で彼は軍用機にはなり得ない、たくさんのお客を乗せる旅客機も作っていました(結局は墜落してその証拠を残さなかった)。劇中で二郎が作った軍用機は人殺しの道具になってしまっても、いつの日にかただお客を乗せて飛ぶ、“正しい姿の飛行機”も作ることができるかもしれない、という希望もカプローニは示していたのかもしれません。

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(C)2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

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