『風立ちぬ』を深く読み解く「10」のこと!
3:庵野秀明が主人公の声を担当した理由とは?
本作で賛否両論を呼んでいる要素には、主人公である二郎の声を『新世紀エヴァンゲリオン』の監督などで知られる庵野秀明が担当していることにもあります。はっきり言って違和感のある演技および声質になっているので、否定的な意見があるのも無理はありません。オーディションにおいて宮崎駿監督が初めに出していた条件は「滑舌がよく、高い声で、早く喋る人」ということだったのですが、そのイメージ通りの人選は難航します。しかし、打ち合わせ最中にふと鈴木プロデューサーが庵野秀明の名前を口にしてから、実際にアフレコをしてもらったところ宮崎駿からは一発でオーケーが出たのだとか。宮崎駿は起用理由について「二郎は頭が良すぎて余計なことを言わないから、素人がやった方がまだ“感じ”が出そう」「庵野は変な声だけどものすごく誠実な男です。アフレコではものすごい違和感があるけれど、喋っていくうちに慣れていく。あいつがやるとリアリティありますよ」などと語っており、後にも「庵野が現代で一番傷つきながら生きている感じを持っていて、それが声に出ていると思ったから」ともコメントしていました。
つまりは、宮崎駿は二郎の声に“演技で作られた”ものではない、“頭が良くあまり喋らない”というキャラクターとしてのリアリティを求めていたのでしょう。前述した通り二郎および軍用機作りは宮崎駿本人やアニメ制作のメタファーとも言えますし、アニメに人生を捧げている庵野秀明こそ二郎にふさわしいと、宮崎駿は考えていたのかもしれません。全くヒロイックに聞こえないその声は、他のことを差し置いてもただただ美しい飛行機を作りたいということを求める(オタク気質とも言える)二郎の“らしさ”、それこそ世の中の技術者や芸術家らしさを表現しているとも取れます。
とは言え、その庵野秀明の声による違和感が意図的なものであったとしても、個人的には二郎の少年期の声(子役の鏑木海智)や、他キャラクターとのギャップがありすぎて、心地良く観ることができない……というのが正直なところです。そんな風にどうしても主人公の声を受け入れられないと考えている方は、英語音声(と日本語字幕)で本編を観てみるのもいいでしょう。そちらでは二郎の声を『(500)日のサマー』や『ザ・ウォーク』などのジョセフ・ゴードン=レヴィットが担当しており、その淡々とした喋りでありながら情熱をも感じさせる声は見事にハマっていて、違和感を感じさせることもありませんよ。
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