<舞いあがれ!・結婚編>18週目~21週目の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第95回のレビュー
なかなか新作ができない貴司(赤楚衛二)。激しい恋の歌(相聞歌)を期待するリュー北條(川島潤哉)に、三百首のなかにひとつだけ恋の歌があると史子(八木莉可子)は指摘します。君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいたは、万葉集にある狭野茅上娘子の歌の本歌取りであると史子は気づいていました
君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも
本歌取りについては、第92回にもすでに出てきていて、貴司が本歌取りをしながら新作を作っている下地ができていました。92回では、ちゃぶ台に佐藤佐太郎の「黄月」が置いてあって、名前を冠した短歌賞があるから敬意を評して美術スタッフが置いたのかなと思いましたが、優れた歌集を傍らにおきながら本歌取りをしている描写なのかもしれません。
短歌編集者・北條も気づかなかったことに気づけた史子は貴司と「孤独」を介して特別な絆があると誇らしげに言いますが、この唯一無二の一本の恋が誰に向かっているのか、なぜ、気づこうとしないのか。いや、史子はほんとうは「つつしみ」深い、この歌の真実に気づいているのです。でも気づかないふりをして、自分が貴司の「灯火」になりたいと考えるつつしみのなさ。
でも、「舞いあがれ!」はそんな史子を批判することはありません。めぐみ(永作博美)に恋をしたらわがままであっていいと言わせているからです。確かに、めぐみは浩太(高橋克典)と一世一代の恋をして、故郷を離れ、愛する浩太と苦労をともにしました。
めぐみは舞にもわがままになるよう助言します。
その頃、舞は、貴司と史子が急接近していくことへの不安を抱えながら、IWAKURAのブログ開設に懸命になっています。新聞で取り上げてもらえなかった男性社員のことを紹介しようと、最初は笠巻(古舘寛治)にインタビューを試みます。職人は黙ってネジを作るものという矜持で最初は固辞した笠巻でしたが、舞の意欲にほだされて語り始めます。
「ほっといたら消えてしまうその(職人の)気持ちをなんとか残して伝えたいんです」舞
ひとの思いを聞くことで、ひとに思いを伝えることを舞は体感していきます。
史子に私は気持ちを伝えます、と宣戦布告され、どうする?
さて、貴司の本歌取りですが、激しい情念がこもった元歌にくらべ、じつにやさしく淡い感じがしますが、「千億の星」ですからね 一つの星ではなく、宇宙いっぱいの星に祈っているのは、彼なりに大きな欲望で「君」を包もうとしているのでしょう。
でもこれ、視聴者的には最初から隠しきれない恋の歌だってわかっていたのではないでしょうか。だって、そんなふうにだれかのために祈ることなんてなかなかできないし、そもそも、短歌はがきは舞にしか送っていないんです。どんなに大変な生活をしてきたかわからない久留美には送ってない。
このドラマを褒めるとしたら、最初からバレバレの恋歌の真実を明かす手間を、本歌取りという仕掛けを作って描いたことです。しかも、本歌取りの精神を、本命の舞から、自分の物語に作り変えようとする史子の恋と創作のまぜこぜになった激しさとして描いているようにも見えます。本歌どりするなら、本歌を超える勢いでいかないと。
スジなんて誰でもある程度書けます。重要なのはビーフシチューにブランデーをいれるようなひと手間です。
【朝ドラ辞典 創作(そうさく)】朝ドラの主人公は作家であることも多く、創作の苦しみを味わう。エピソード「エール」は作曲家、「なつぞら」はアニメーター、「おちょやん」は俳優、「半分、青い。」では漫画家を志したが挫折した。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
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