<虎に翼 ・大学編>1週~5週の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第19回のレビュー
一筋縄ではいかないドラマです。まず、花岡(岩田剛典)の扱い。初登場のとき、じつに爽やかに出てきたかと思ったら、実は女性を見下していたことが判明して、敵キャラ?と思ったところ、轟(戸塚純貴)にたしなめられて、あっという間に本音を吐露します。
女性と浮名を流すのも、寅子(伊藤沙莉)たちの陰口を叩くのも、本心からではなく、男子生徒たちになめられたくなかったから。単なるかっこつけだったと。
花岡の種明かしは、梅子(平岩紙)に謝罪する場面で行われます。その様子を、轟と寅子が柱の影に隠れて、朝ドラあるある「立ち聞き」(朝ドラ辞典参照)します。この奥行きのある構図が良かった。単調になりがちな朝ドラの画面にしてはいい画づくりでありました。
このときの梅子が良いのです。
「ほんとうの俺じゃなくて」と反省する花岡に、
「人は持っている顔はひとつじゃないから。たとえまわりに強いられていても、本心じゃなくて演じているだけで全部花岡さんなの」と言うのです。
ほんとの自分じゃないという自己弁護を批評しつつ、「でも花岡さんの思うほんとうの自分があるなら大切にしてね。そこに近づくようがんばってみなさいよ」と肯定もする。梅子がそれをできたのは、彼女自身がほんとの自分を隠して、寅子のいうところの「スンッ」として生きているからでしょう。
誰しも相手によって話すことも態度も変わるもので、それは相手の影響を受けた”自分”なのだという深い話で、演じているのも自分、という考え方、とても潔いと思います。
第18回で、梅子の過去を描いたからこその、花岡との会話の説得力でした。
となると、夫と帝大生の息子にもきっといい面もあるのではないでしょうか。
改めて花岡と寅子が話したとき、寅子は花岡から「これじゃまた君のことばかり考えてしまうだろう」と言われます。
「えっ? えっ えっ え〜」(ナレーション〈尾野真千子〉)
寅子がぼーっと、そしてにんまり浮かれて帰宅すると、それどころではなく。
直言(岡部たかし)の贈賄容疑が持ち上がっていて……。潔いくらいに、つづきを気にさせる手法。
最近、直言の様子がへんだったことを直道(上川周作)は「女がいる」とひとりごちていましたが、予想とまったく違い過ぎる展開に。
ほんとは、病室で、「愚か者」と頬をひっぱたき「思ってもないことをのたまうな」「上京そいてからのおまえ、日に日に男っぷりが下がっている」と花岡を叱咤した轟がすばらしかったのに、ラストのインパクトが強すぎて、病室での話が別の回のように遠のいてしまいました。毎回、15分の内容が濃すぎます。
展開が濃すぎて早すぎて、花岡が崖から落ちてあちこち怪我して入院した要因はそもそも、寅子が彼を小突いて、意図せずとも崖っぷちに追い込んでいったことがきっかけであることが、轟のエピソード以上に記憶の彼方です。
口論になったときなぜ相手を小突く必要があるのかということについては、深く考える間を与えない流れです。ほんとうだったら、取り返しのつかないことになったかもしれないと自分の心臓が止まりそうなほど、ご飯も喉を通らないほど考え込んでしまいそうな極面でしょう。そこは視聴者の想像力や良心を信頼されているのだと思うことにします。
【朝ドラ辞典2.0 佐賀(さが)】はなわやさや香にネタにされる佐賀。九州地方にあり、戦国時代には秀吉が「名護屋城」を作って唐入り(文禄・慶長の役)の拠点にしていた。「虎に翼」では花岡の故郷が佐賀。朝ドラで最初に佐賀が登場したのは1969年の「信子とおばあちゃん」。ヒロイン信子の生まれ故郷が佐賀だった。朝ドラで佐賀を印象付けたのは1983年の「おしん」。ヒロインおしんの嫁ぎ先が佐賀で、そこでの嫁いびりが壮絶で、良くも悪くも忘れられない地名となった。2015年、「ひよっこ」ではヒロインみね子の初恋の相手の故郷が佐賀で、彼はみね子との交際を親に反対され、家業を継ぐため佐賀に帰ってしまう。朝ドラでは何かといい印象がない県で、花岡が一瞬いやなキャラに見えたので、またかと思ったが、いやなキャラは偽悪的なものだったことがわかり、佐賀の印象が悪くならずに済んだ。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
→元記事はこちら
→目次へ戻る
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
(C)NHK