<らんまん・植物学者編>16週~20週までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第94回のレビュー
「(本当のことを)知らないのに人に石を投げつけているの」
(寿恵子)
新聞に、田邊(要潤)と聡子(中田青渚)をモデルにしたいかがわしい小説が掲載されて、購読者たちがけしからんと田邊邸に押しかけます。
怯える子どもたちに、聡子は懸命に田邊に尽くしているのだと語りかける寿恵子(浜辺美波)。
これは、万太郎(神木隆之介)のモデルの牧野富太郎と妻をよく知らずして、
お金にルーズで自分のやりたいことのために他人に頼ってばかりの夫と信じられないくらい献身的な妻というように、実際この眼で見てないことにもかかわらず、記事などを読んで安易に思い込んでしまうことへの警鐘にも思います
が、最も思い浮かべるのは、現代のネット炎上です。
小さな火がたちまち燃え移って大きくなってすべてを焼き尽くしてしまう。
いつの時代も、人々は激しく燃えます。
人の良いえい(成海璃子)ですら、新聞の内容だけ聞いて「最低。なにそれ」と火がついていました。寿恵子から事情を聞けば、理解するでしょうけれど、知らなければ、実話だと思いこんで、田邊を責める側に回っていたかもしれません。
寿恵子が聡子と子供たちを励ましていると、田邊が現れ、冷たい言葉を吐きます。
寿恵子は「槙野にご執心なのはあなたさまではありませんか」と鋭く言い返します。頼っているとかいう言葉ではなく、「ご執心」という言葉を選択するところが文学好きの寿恵子らしい。彼のなかの愛憎みたいなものを見抜いているのでしょう。
寿恵子は「殿方のことは私とお聡さんにはいっさい関わりがありませんから」と田邊と万太郎の確執と、自身と聡子の友情を切り分けます。そんな彼女を「無教養」と田邊はそしるのですが、それはそれ、これはこれと、分けて考えられないことのほうが教養のなさだと思います。それに気づけない田邊は、悪い人ではないけれど、残念な人です。
世間にも、田邊にも寿恵子がプンプンゆだっているとき、四国では万太郎が植物採集を行っています。植物標本を田邊に寄贈しないといけないから、ゼロからやり直しているわけです。そこで、出会った、遍路宿で働いている少年・山元虎鉄(寺田心)から不思議な植物を教えてもらいます。
「こんまいお遍路さん」と少年が呼ぶそれは、白くて小さくて群生しています。見たことのない植物に出会って、万太郎の探究心が燃え上がります。情熱の炎は善き炎。
「名前は?」と植物の名前を聞いて、少年が「山元虎鉄です」と答えてしまうところが微笑ましい。
おりしも夏休み、お盆休み、自然に触れに行きたくなりました。暑いですが。
余談ですが、田邊家に石を投げ、汚い言葉を投げつけ、子供を脅かし、暴徒と化す一般市民も、ふだんは善良な一般市民なのでしょう。彼らの姿を見て思い浮かんだのが、明治のあと、大正になって関東大震災が起こったとき、人々の誤解が取り返しのつかない事件に発展したことを映画化した「福田村事件」(9月1日公開)です。この映画は、人間が容易に他人を糾弾する側に回ってしまう、それも集団化して。そういうときのおそろしさを突きつけてきます。ご参考までに。
※この記事は「らんまん」の各話を1つにまとめたものです。
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