<ブギウギ ・東京編>6週~10週の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第38回のレビュー
入隊前に六郎(黒崎煌代)がスズ子(趣里)を訪ねて来ました。きょうだいなのに似てないとチズ(ふせえり)がなにげなく言うと、六郎は血が繋がってないとまた蒸し返します。ニコニコしながらペチペチと六郎のアタマを叩くスズ子。血が繋がってなくても遠慮のない関係です。
その晩、スズ子と六郎は並んで寝ながら、語らいます。
軍隊に入ったらばかにされるかもという不安、死ぬかもしれないという不安が六郎のなかに湧き上がってきていました。
最初はあんなに軍隊に行くことを喜んでいたのに、どうしたのでしょうか。まさか、ツヤ(水川あさみ)を心配させたくなくて、明るく振る舞っていたのでしょうか。
六郎は「死ぬってどんな感じなんやろ」って考え始めたら、止まらなくなったと言います。
純粋で、本来、賢い子だから、ひとつのことを考え出すと、深掘りして、際限なくなるのかもしれません。亀が好きだと、亀一直線ですし。
最初は、戦争は一人前になることと思っていたけれど、出征に対する周囲の反応がどうやらおかしいし、戦争ごっこしていたらあののんきな梅吉(柳葉敏郎)が猛烈に怒ったし、じょじょにその理由や戦争というものについて考えはじめたら、戦争の本質に行き着いてしまったのではないでしょうか。
「人間みな死ぬやろ、こわいわ」「こわいの好かんねん」
考えていったら「死」に行き着いてしまった。それはとてもシンプルで、とてもこわいことーー。
スズ子の布団に入る六郎。お母さんにはやらなかったのに、ぎゅっとスズ子に抱きついて「死にとないわ」と弱音を吐きます。
でも翌朝は笑顔でお別れ。
「行って参ります」とまた言って、言い直そうとしますが、スズ子が参りますでいいと言い、
「行って参ります」にします。万歳ももうしません。スズ子しかいないこの場所では、正直でいい。
「ねえやんの舞台を見たかった」と去っていく弟を見送るスズ子が、ただただぎゅっとスカートを握る、その手のアップだけで、スズ子の心境が胸に迫ります。
さらに、哀しみが踵を接してきます。
ツヤが危篤の電報が届きます。すぐ帰りたいけれど、舞台に穴を開けることができない。悩むスズ子に、「舞台を生業にしているものは親の死に目にあえないと思っていただきたいのですね」と竹田(野田晋市)は言います。別にこれ、彼だけの考えではなく、昔から、俳優は親の死に目に会えないと思えと言われているのです。楽しみに見に来てくれるお客様のために、どんなことがあっても舞台に立たないといけないと思ってやっているのです。
羽鳥(草彅剛)が、微笑みをたやさず、あくまでもおだやかに、帰ってもいいけれど、と言いながら、続けた言葉は厳しいものでした(口調は柔らかいのに)。
ステージに立つ以上演者の事情は関係なくて、
「むしろ自分の苦しい心持ちを味方にしていつもよりいい歌だといわれるくらいじゃないと僕はダメだと思う」と。
やわらかに厳しく、覚悟を問われ、スズ子がした選択はーー。
羽鳥が優れているのは、こうしろと言わないこと。スズ子に決めさせているんです。これは見倣いたい。
羽鳥の問いから、スズ子が見つけた本音は
「歌手としてもっと大きくなりたい」でした。
舞台に立つスズ子を見つめる羽鳥の顔の真剣さが印象的でした。
スズ子は表現者として欲望が大きい。業が深いともいえます。それって、血が繋がっていないけれど、ツヤに似ているかもしれません。
危篤の電報が送られる前、大阪では、すっかり弱ってきたツヤが、「こんな早う死になんて思いもせいへんかったわ」と嘆き、それを「スズ子をキヌ(中越典子)に会わせなかったから罰やろな」と考えます。にもかかわらず、梅吉に「このまま、何があっても、スズ子をキヌに会わせんといてほしいねん」と頼んでいました。
「ワテの知らないスズ子をキヌが知るんは 耐えられへん」(ツヤ)
すごい。すごい考え方です。この欲望は小さいのか大きいのかわからない。業が深いとしか言い様がありません。
「性格悪いやろ、醜いやろ」と自虐するツヤに、梅吉は「最高の母親や」と理解を示します。愛情の異常な深さを梅吉は最高、と愛するのです。
この物語を評価したいところが、ツヤが、実はスズ子がキヌとすでに会っていることを知らないことです。どんなにかっこいいことを言っていても、どこか滑稽なのが人間です。
人生には自分が知らないことがたくさんある。その最たるものが、自分の寿命です。いつ死ぬか、どう死ぬか、コントロールできません。死んだらどうなるのかもわかりません。人間ってなんのために生まれるんだろう。
梅吉は、ツヤのことを脚本に書いて映画にすればいいと思います。
※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。
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