<ブギウギ ・東京編>6週~10週の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第44回のレビュー
スズ子(趣里)を取り巻く状況はどんどん悪いほうに向かう一方。コーヒーも品薄。楽団も解散。喧嘩して険悪な関係になっていた梅吉(柳葉敏郎)は、喧嘩騒ぎを起こして警察に連行されてしまい……。
しんどいのはスズ子だけではありません。羽鳥(草彅剛)の作曲活動も制限されていました。ただ、「蘇州夜曲」だけは大ヒット中です。
スズ子もそれを歌いたいと申し出ますが、羽鳥は首を縦に振りません。
スズ子にはスズ子に合った歌がある。それは「ラッパと娘」。ふたりは稽古場でセッションします。
「蘇州夜曲」は実在した歌で、昭和15年(1940年)に発売されました。羽鳥のモデル・服部良一が作曲、作詞は西條八十、歌は渡辺はま子。
渡辺が歌った「支那の夜」が大ヒット、同名タイトルで映画化されたときの挿入歌です。
チャイナメロディの第一人者となった渡辺さん、朝ドラ「エール」(20年度前期)の主人公・古山裕一(窪田正孝)のモデルになった古関裕而の「愛国の花」を歌って大ヒットさせています。昭和13年のことでした。
「ブギウギ」と「エール」は同時代のお話で、「エール」は戦時下、主人公・裕一が軍事歌謡を作って、後々、苦悩した物語が描かれ、「ブギウギ」では、羽鳥が軍事歌謡を作らず(本人はその手のジャンルの曲が作れないと言っている)、そうではない曲を作り続けた物語になっています。
ひとつの物語のなかで、服部良一と古関裕而の生き方の違いを描くと面白そうですけれど、朝ドラという枠の中で、同じ時代に違う生き方をした人を別々なドラマとして描くのも一興です。
ただ「ブギウギ」はあくまで、主人公は笠置シヅ子をモデルにしたスズ子。羽鳥は主人公ではないので、彼の考え方、生き方は主軸ではありません。スズ子との関わりを通して、時折彼の行き方が語られます。第44回では、楽団員が徴兵されて少なくなるたび編成が変わり、編曲を変更しないといけない。それでも、羽鳥は曲を作り続ける。「なにがあっても音を出し続けるのが楽団だからね」と。
草彅剛さんの言葉は、静かで穏やかで、意見を他者に決して強いるものではないながら、本人の揺らがない意思は伝わってきます。自然のなかで立ち続ける一本の木のような印象です。
ところで、朝ドラでいつもこんがらがるのは、「エール」も「ブギウギ」も、実在する人物をモデルとしているキャラクターが創作した作品は、実在する作品そのものであることです。今回も「蘇州夜曲」のポスターが、羽鳥善一作曲になっていて。事実と創作が混ざって、こんがらがるのです。
曲名を役名のように少し変えて、曲も新たに作ることは大変だから仕方ないのでしょう。実在する名曲を使うことこそ重要でしょうし。
歴史に描かれていない隙間を創作するのともまた違い、実在するものの所在がフィクションになってしまうことは、ありかなしか、作り手にいつか聞いてみたい気がします。
※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。
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