<ブギウギ ・東京編>6週~10週の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第29回のレビュー
羽鳥(草彅剛)とスズ子(趣里)のレッスンがはじまりましたが、羽鳥からのOKは出ません。「楽しくないなあ〜 本番もう少しだよ 大阪帰る?」なんて、なかなかきつい言葉ですが、草彅さんの言い方がやさしいので、いわゆるスパルタには見えずに済んでいます。といっても、実際、言われた身になったらしんどいかも。
「彼は笑う鬼だよ」と表するのは松永(新納慎也)。
”笑う鬼”まさに。
笑う鬼は、どんな歌手になりたい? とスズ子に問います。
大和礼子(蒼井優)だとスズ子が答えると、大和礼子はふたりいらない。福来スズ子になってほしいと言うのですが、スズ子は自分の憧れの気持ちを否定されたようでストレスが溜まっていくばかり。
しかも、いちいち、茨田りつ子(菊地凛子)を引き合いに出して、さりげなくライバル心を焚き付けるのです。やっぱり、笑う鬼。
楽しく、楽しく、というわりに、楽しくない気持ちにさせていく羽鳥。
思い悩んだスズ子は、羽鳥の家までレッスンをしてもらいにやって来ます。
ちょうど、息子のカツオと羽鳥がお風呂から帰ってきます。
息子のカツオも羽鳥に似て、自由な感じがします。
羽鳥善一のモデルは服部良一さんで、その息子は服部克久さん。克久からカツオとつけたのでしょけれど、カツオといえばやっぱり「サザエさん」。昭和の家庭のオマージュという感じがします。でも羽鳥カツオの髪はややタラちゃんみたいでした。
そこで、スズ子は、松永の助言に従って、いまの怒りを歌にぶつけました。
すると、羽鳥の顔つきが変わります。
「どうしちゃったの? なんだか少しだけジャズぽくなったじゃない」と羽鳥もやる気を見せます。
いい感じだぞと思うと、妻・麻里(市川実和子)が夕飯の支度ができたと呼びに来て、いったん休止(休戦?)に。
食事の席で、羽鳥がどういう人物なのか少しわかってきます。じつは、大阪出身だったとか……。
軍歌みたいな流行歌を作ってお金を稼いでほしいのに、とぼやく麻里に、
戦時歌謡は作れないと羽鳥は言います。
戦時歌謡、というと、「エール」(20年度前期)の主人公のモデル・古関裕而を思い出します。古関は戦時歌謡を量産していました。スズ子が東京に来る1年前の昭和12年、「露営の歌」を出しています。
もしかしたら、戦時歌謡には、古関がいる、同じようなことをする人はいらないという考えのもとに、戦時歌謡を作る人がいるなら、自分は作らないと思っているのかもしれません。自分が好きなのはジャズ。羽鳥はそれを貫きたいのかも。
あるいは、戦時歌謡は作りたくないという確たる意思か。
音楽的な問題か、思想的な問題か、物語のつくり手がどちらを選ぶかで、だいぶ、当人の印象が変わってくる部分でしょう。見る人によっても、どう思うか、変わってくるところかと思います。
ただ、わたしたちが考えるためのヒントがあります。
辛島(安井順平)がジャズの蘊蓄をスズ子に語ろうとして、松永に外されてしまったとき、南北戦争が終わって、解放された黒人奴隷たちが……と言っていました。黒人奴隷たちが軍の払い下げの楽器を使ってはじまった音楽がジャズなのです(もっと詳しいことはそれぞれで調べましょう)。
ジャズが楽しくなければいけないというのは、あらゆる意味での解放を意味するのだと想像できます。
スズ子がはじめて感情をあらわにして歌った「ラッパと娘」は、羽鳥への殺してやりたいという正直な怒りを解放させた。それは、いわゆる楽しいものとは違うけれど、魂の解放という意味で、羽鳥が求めていたジャズの本質に届きそうになったのではないでしょうか。
「楽しい」は心がのびのび晴れやかであることなのです。
素直な心は相手の心を動かす。笑う鬼がニヤリと反応して、乗って来ている感じが楽しかった。
「福来くんはホットですよ」と羽鳥は言います。
道々、歩きながら歌う、スズ子と羽鳥。
スズ子の歌に合わせて、合いの手を入れている羽鳥が心から楽しそうで、ホットでした。
※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。
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