<らんまん・東京編>6週~10週までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第38回のレビュー
研究室の人たちに冷たくされて「さみしいがよ」としょげる万太郎(神木隆之介)でしたが、竹雄(志尊淳)の叱咤激励によって気持ちを立て直すことができました。竹雄は、万太郎を甘やかさず、彼の立ち位置をはっきり指摘し、そのうえで、万太郎の良さもちゃんと伝えます。
竹雄はなかなか鋭くて、自由ということの重さを知っています。好きにすることは孤独になることでもあるけれど、それでも好きなことを選ぶことで真の自由が手に入るのです。
どんなに悪い人でも(万太郎は悪くないけど)、竹雄のように客観的な人がそばにいることで、相対化することができますから、万太郎にとって竹雄はなくてはならない存在です。
竹雄に請われ、似顔絵を描いた万太郎。でもその絵は微妙なもので、竹雄は「いやがらせじゃないですろうか」とむくれます。
植物の絵はあんなに精密なのに、人間の絵はなぜ……。でも、そのおかしな似顔絵も人の心を動かすことになろうとは……。
心をいれかえ前向きになった万太郎。自分にできることーー東京中の植物採集しようとします。研究室に来たときは靴を履いていた万太郎ですが、草鞋姿になっています(タイトルバックの万太郎も草鞋です)。洋服と草鞋の組み合わせ、なかなかおもしろい。
冷たくされた学生たちにも明るく接し、藤丸(前原瑞樹)にシロツメクサを渡します。
藤丸にはではなく、兎に、と聞いて、心が動いた様子。
一方、野宮朔太郎(亀田佳明)は「うまくやってるじゃないですか」と嫌味なことを言います。が、そんな彼も、竹雄の似顔絵に吹き出して、そこから態度を軟化します。
植物の絵はちゃんと描けることに驚いた野宮は、自分の絵を万太郎に見せます。それは西洋絵画の技法に沿った陰影のあるものでした。
絵を笑ったおわびに、ひとつと、気になる言葉を残す野宮。
「逆らってはいけませんよ」
気になるーー。
物語の流れの緩急のつけ方が巧すぎる。
万太郎は、植物を愛する者同士、志を同じくする者として、西洋に遅れをとっている植物研究の進歩を目指そうという広い心を持っていますが、どうやら、意外とこの研究室は、そういう理想ではなく、権威の下で生き残ることが優先されているらしい。それは自由とは真逆です。はたして、東大植物学研究室はほんとうにそんな淀んだ場なのでしょうか。万太郎のこれからが気になります。
その頃、寿恵子(浜辺美波)は、女は玉の輿に乗ってこそという昔ながらの考えをする叔母みえ(宮澤エマ)に、そんなことに興味ないし、馬琴が好みだと言い、「じじいじゃないの」と呆れられます。
寿恵子が尊敬する作家・馬琴は、長い年月をかけて物語を書き、目が見えなくなっても口伝で書き続けた。やりたいことを貫いた人物で、万太郎と重なるのでしょう。
物語のそこここに、好きなことをやるというテーマが隠れています。
長田育恵さんは、2時間くらいの舞台作品をいくつも描いてきて、演劇界の芥川賞とも言われる岸田戯曲賞の候補にもなるくらいの実力のある作家です。
原作もののまとめがうまいとか、民放ふうのがちゃがちゃした連ドラを書くのがうまいとか、それもひとつの才能ですが、「らんまん」のように密度が高いのにしっとりしていて、そのうえ、うねりがあって、川の流れが滞らないように進んでいくものが描ける作家の朝ドラが見られることが幸せです。
※この記事は「らんまん」の各話を1つにまとめたものです。
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